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「なるほど、子供が遊ぶには丁度いい明るさと奥行きです」
西山の社と杜は村の西端の開けた山裾にあり、夏休みの頃合いには、村人総出で涼む催しがあるのも当然といった具合に、なんとも山の香を多分に含んだ心地の良い風が惣太郎の身を包んで心地よかった。
「‥‥」
「やあやあ。お待たせして申し訳ありませんねぇ」
そんな清浄空間な社の前に立ち、惣太郎を無言で出迎えたのは二十歳の可愛らしい女性。
「向島佳世さんでよろしいですかね?」
手帳を取り出してペラペラ見ていた惣太郎は、木津和音のかつての友達に確認を取る。
「私にあの頃の話を聞きたいと電報を打ったのはあなたですか?」
「そうです。事前にお報せした通り、十年前に居なくなった木津和音くんのことについてですよ」
佳世は貧乏そうで怪しげな男に戸惑いを隠せない様子だったが、惣太郎は構わず言葉を繋ぐ。
「確かこの場所で和音くんと夕暮れまで遊んでいたんですよね」
中折れ帽をとり、ボサボサの長髪を風に靡かせて惣太郎は、よいしょ。と、社の建物に登る石段に腰を落ち着け、佳世にも座るよう左隣の石段をポンポン叩いて促した。
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