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「守、隣町の和菓子屋さんで苺大福買ってきたわよ!」
お母さんがお買いもののついでで、おみやげを買ってきてくれた。でも苺大福が好きなのはお父さんで、僕は甘いものはそんなに好きじゃない。けど、お母さんはそれを知らない。
当たり前のように食卓に三つのお皿がのる。そして当たり前のように苺大福が一個ずつ乗っかった。
「頂きます。」
嬉々とした表情でお父さんが大福をほおばる。とてもおいしそうに見えるけれど僕はまだそれを食べる気になれなかった。
「守、食べないの?」
「ううん、あとで食べるよ。
僕、お庭に行ってくる!」
よいしょ、と高いいすから降りて
何事もない顔で庭へ行った。
何をしに行くわけでもない。
昨日咲いた赤い花にとまったてんとう虫をじっと見つめる。そうしている間にも苺大福は僕の頭の中から離れない。あとで食べると言ったがやっぱりあの甘いあんこを口に入れようと思えない。その時だった。
ガサッ
僕の前に一冊のノートが降ってきた。
「誰? お母さん?」
キョロキョロと周りを見回すがそこには誰もいない。おそるおそる落ちてきたノートを見つめる。
そこには〈とくめいこうかんノート〉と書いてある。そういえばこれ、この間先生に出された宿題ノートだ。匿名でいろんな人と交換日記するやつ。緑の表紙の裏に〈うえのまもる〉と書いてある。
これ、僕のノートだ!
なんでこんなところに?
あれ、でも何か書いてある。
◯月×日。天気、晴れ 〈きいろいきつね〉
きいろいきつね、という知らない名前に
心が踊る。まさか狐が書いたのか?
次のページをめくるとまだ続いていた。
〈オレはきいろいきつね。今日は守の家に苺大福があったのが見えた。おいしそうだな・・・。〉
そこで終わっていた。なんだこれ・・・!?ワクワクしながら鉛筆を取りに行き、もう一度そのノートを開くと書き込みが増えている。
〈お前の苺大福、庭の隅っこにおいてくれたら守の好きなものと交換できるぜ。〉
僕の好きなもの・・・おせんべい、とか?
甘いものは好きじゃないけれどお菓子が嫌いなんじゃなくてしょっぱいものが好きだった。でもそれは誰にも言ってないはずだったが、きつねはそれを知っている。
そっとお母さんに気づかれないように苺大福を取りに行き、庭の隅に咲いている花の影で隠れてしまうところに置いた。
「あっ!」
そこにはすでにおせんべいがラッピングされて置いてあった。きいろいきつねだ。
すごい!
静かにそれを手に取ってこっそり食べた。無理に食べる甘いものよりすごくおいしかった。そうだ、今日のことを日記に書いておこう。そう思ってまた自分の部屋に戻った。
「あなたはいつから知っていたの?」
「知っていた、というより何となく気づいた、かな。」
庭の隅に守が置いていった苺大福を食べながらそう答える。あまり大福に手を伸ばそうとしない守。それでもお煎餅がでると嬉々として手を伸ばしていた。
俺は甘いものが好きで守はしょっぱいものが好きなのだろう。次に母さんが和菓子屋に行くときは大福のついでにお煎餅も買ってきてもらおう。
「それはいいけど、苺大福なんて二つも食べたら太るわよ。黄色いきつねさん?」
「そうだな、次はやめておくよ。」
苦笑しつつも、きいろいきつねは苺大福の最後の一口をおいしそうにほおばった。
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