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氷を片手に舐めた義妹を胸元から離した。やっぱり、いたずらが成功した子供のように笑っている。
そんな義妹から氷を取り上げ、耀平はシンクに放り投げた。武器を奪う兄貴の気分だった。
それでも。もうおまえの思うとおりだなんて。まったくわかっていない義妹の顔が憎たらしい。
―◆・◆・◆・◆・◆―
この家に来ると、なるべく風を頼りにするようにしている。冷房はつけない。
冷房などない工房でガラス職人達が頑張っているのに、ひとり涼んでいては申し訳ない気持ちもあるけれど、ただこの家の風が好きでそのまま自然でいたいと思わせてくれるからだ。
義妹も真面目に工房に戻ったので、耀平も仕事をする。
書斎に籠もり、持ってきた書類とノートパソコンを机に置く。
開け放した窓から、庭が見える。リビングとは違う趣。自分が植えた夏の花がちらほら終わり、初秋の花が咲くようになった。庭角にある『酔芙蓉』は、もう咲き始めていた。
風鈴の音を聞きながら、耀平はとある書類にサインをしようと愛用している万年筆を取り出す。
ずっと使ってきた。自分がなにも知らない『夫』だった時から使っている。
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