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そんな妻の活動に、耀平は一度も文句を言ったことはない。むしろ、彼女らしいと思っていたし、幼い花南を監督するのにちょうど良いと思っていた。
妻の美月は常々言っていた。気ままな妹の青春。
『これも勉強よ。花南はこの家を出て、自由に生きていくのだから。傷ついたり、傷つけられたり、傷つけたり。必ずあるのだから――』と真剣だった。
そんな花南が馬鹿馬鹿しい若さを謳歌していると、美月は楽しそうに笑い。花南が危なっかしい経験をして冷や汗をかいていると、大人の顔で諭して、肥やしにさせようとしていた。まるで自分に起きたことのようにして……。
そこに姉妹にしかない絆を、耀平は感じていた。
自由に駆け回る妹が、楽しそうにしたり、傷ついたり、果てない夢を追っていたり。家に縛られた姉の、分身だったのかもしれない――と。
そんな姉を亡くし、花南も分身をなくしたように思っていたのかもしれない。寄り添ってくれていた姉の秘密を守ろうとしたのも、自然なことだったのかもしれない。
万年筆を見下ろし、耀平は呟く。
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