1.月と花の姉妹

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 残暑もまだ厳しい、長月の候。  彼女が帰宅して、三ヶ月。    今日も耀平は、豊浦にある本社からやっとの帰宅。二日ぶりだった。  緑の垣根に車を駐車し、黒いスーツ姿で急いで家の中へ向かう。  豊浦の本社に副社長として通うのは絶対なので、いまはどうしてもこの家を一晩二晩は空けてしまうことになる。  つい最近までこの家に来ると、誰もいなくて、ただリビングに光が射しているだけだった。  義妹の匂いもなく、窓も閉められ、空気が淀んでいた。訪ねてきた耀平が窓を開けて空気を入れ換えても、そこには侘びしさが余計に漂うばかり。  ダイニングは妹が出て行ったままのテーブルクロスで、彼女が作ったガラスの花瓶にはなにも生けられてはいず……。ただ、庭だけは耀平が手入れをして花を咲かせていた。  工場用のエプロンをした義妹が休憩時に、花鋏を持って、今日はなにをいけておこうかと静かに想っていてくれた後ろ姿だけが浮かぶ。
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