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「美月。妹を見て、自分がしているように感じていたのか。美月……。自分ですれば良かっただろう……。できなかったのか、美月」
花南が握りしめていた『秘密』のなにもかもを知って、ようやく『妻』を知れた気がするこの頃。
耀平はそっと額を抱え、机に項垂れた。
朝は白い酔芙蓉が、夕が近づくと、ほのかに紅に染まり始める。酔う花、酔芙蓉。
たおやかだった花が、妖艶に開ききる。
きっと妻は、結婚してから『やりたいことをやった』のだと思う。結婚してしまったから、諦めてしまったから、封印をしたから余計に。
そんなあやかしの姉の秘密に巻き込まれた者同士。
耀平と花南は、違う秘密を片方ずつ握りしめて生きてきた。
美月が死んだ。冷たい真冬の萩の海で死んだ。
もうすぐ大学を卒業する予定の花南が、慌てて広島から帰ってきた。
姉の亡骸にすがり、大泣きした花南を今でも覚えている。
姉の秘密。巻き込まれ背負ってしまった妹ではあっただろうが、それでもそんな美月をいちばんよく知り理解していたのは、また妹の花南だったとも今は思う。
そんな花南が暫く実家にいて、気落ちしている母親に付き添っていた。
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