1.月と花の姉妹

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 それだけではない。母親を失ってわけがわからずともぐずっている航の面倒を一緒にみてくれた。  初めての男親だけの子育て、祖母の手を借りての子育て。その仲介役のようなものを、花南がやってくれた。あれがなければ、義母とはうまい連携が取れなかっただろうと振り返る。  大学を卒業してすぐ、花南は実家に戻ってきた。そこから広島の仲間と創作活動を続けていたが、豊浦の実家で、そうして義母と花南と耀平と三人で航の日常を整えようとした期間がある。  この時間がなければ、おそらく義妹は義妹のままだっただろうし。花南も、義兄など気にせずに、実家を出て行った自分の世界で男を見つけていたと思う。  しかし。一時して、花南が出て行く決意をして、あっという間に出て行った。  ――小樽の工房で修行をする、と。  それを耀平は見送ってしまった。本当は、まだ一緒にこの家で暮らしたいと思っていたのに。創作活動が上手くいっていないことを知っていた。花南にはここしかない。だから、出て行かないと思っていたのに。  耀平の心に、花南がひそかに咲いたのはこの時か。
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