2.××年 小樽

1/20
前へ
/357ページ
次へ

2.××年 小樽

 今夜も、最後のカリヨンの鐘が聞こえると、静かになる。  この家も、花南と耀平のふたりだけになる。  花南のベッドで、耀平は薄いシャツだけを羽織って雑誌を読んでいる。  夜風が涼しくなってきて、庭に住み着いている虫の声が心地よい。  向こうの書斎からは、微かに風鈴の音――。  毎日この家に居られないが、それでも、耀平のお気に入りを集めたこの家はとても落ち着く。  それにしても。花南がまだ来ない。  いつまで待たせるんだ。気になって様子を見に行こうと雑誌を閉じたところで、義妹が部屋に入ってきた。  だけれど、耀平はまた目を見張る。  ドアを開けて入ってきた花南が、素肌にサテンのガウンをさらりと羽織っていて。いつもはきちんと前を閉じて紐を結んでいるのに、今夜はあけっぱなしで入ってきた。  また義妹らしい『あけすけ』さ。でも、それで大人のお兄さんをワザと煽っているのが丸わかりだった。  そんな姿で耀平が寝そべっているベッドの縁に来て、じっと立って見下ろしている。そうして試している。男がどうやって自分を欲しがるか、これは義妹の悪戯だ。
/357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4788人が本棚に入れています
本棚に追加