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元々、ガラスの活動のために、度々広島へと出掛けることも多かったため、航は今でも『カナちゃんは、どこにガラスのお仕事に行っているの』と尋ねるぐらいで、祖母と父親に『遠い北海道だよ』と聞かされると、『じゃあ、まだだね』と納得して終わる日々になっていた。
しかし、耀平だけがまだ釈然としない。二年近くも同じ家で暮らしていたのに……。
ある雨の日。
『ほんとだ、かえるがいっぱいだ』
『……でしょう。いっぱいでしょう』
庭からそんな声が聞こえてきた。
庭で本当に蛙が大発生したのかと驚いた耀平が覗いてみると、息子と花南が小さく丸めた背を並べて雨だれが落ちる縁側を見下ろしていた。
『ガラスのかえるだね、カナちゃん』
『今度、航にガラスのカエル、つくってあげるよ』
やったー! 縁側で息子が飛び上がっていた。
なにをしているんだと、耀平が声をかけると、二人が揃って笑顔で振り返ってくれる。
妻にも見放された男を、そうして迎えてくれるのは、この時は……この二人だった。
『みてみて、おとうさん。ここにかえるがでてくるんだよ』
『どれどれ』
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