2.××年 小樽

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 気構えのないいつもの義妹を見たいからと来ていることは伏せてもらい、そっと影から工房を覗かせてもらう。  男ばかりの職人が吹き竿を吹いたり回したりしている中に、ひとりだけ華奢な義妹を見つけた。それでも、あの勇ましい姿でガラスを吹いていた。元気そうな姿を一目見て、耀平はふっと微笑むことができた。  その義妹に耀平は魅入ってしまっていた。やはり彼女がガラスを吹く姿はとてもいい。ひたむきな眼差しで、頬を染めて、まるでガラスと対話をしているようだった。  学生の頃よりもずっと、ガラス職人らしくなっていた。  見学の後、工房裏にある小さな事務所に案内される。 「いかがでしたか。妹さんの働く姿は」  応接ソファーで親方と向き合う。 「ますます職人らしくなっていて安心いたしました。花南の亡くなった姉、私の妻は、妹がガラス職人になることを願っていましたので、彼女も喜んでいることでしょう」 「彼女がこの工房で面接をした時にも、そう言っておりました。お姉さんがいろいろと応援してくれたことを、今更無駄にしたくないと……」
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