2.××年 小樽

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「いえ。花南もそれは覚悟して出て行ったのでしょう。学生時代は姉の援助がありましたが、その援助がなくなってもやりたい意志は消えなかったようですから。それならば、自分の力でと思ったのでしょう。どうぞ、実家のことなど遠慮せずに育ててください。花南の父親も母親も、そう思っていることでしょう」 「ですが……。お姉さんを亡くして、一人娘になったのですよね……」  だから余計に連れ戻されないか案じてしまったのだろうか。 「いえ。妻が跡取り息子を遺していきましたので、父親としても息子を跡取りとして立派に育てる所存です。私は養子ですが、倉重を息子の代まで支えたいと思っております。ですので、義父も義母も、もともと気ままに育てた末娘のことは、彼女の思うままにして見守るつもりのようです」  そうでしたか。良かった。――と、親方が胸を撫で下ろした。  ベテラン職人に気に入られたのなら、合格だな――と、耀平も安堵した。  そして。やはり、花南のことは実家に戻ってもらうではなく、ガラス職人として生きていけるようにしてあげなくてはいけないなと……。義兄として決心をした瞬間でもあった。    ―◆・◆・◆・◆・◆―
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