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彼の胸元に抱きついたまま、カナも微笑む。でも耀平兄は不思議そうにして、カナの顔を覗き込む。
「あの日?」
「そう。あの日。義兄さんと姉さんが結婚する日と同じ」
流石に義兄が、息引くようにして硬直したのがわかる。
「カナ、違う。あの時と、いまの俺は――」
「違うよ。あの日の耀平兄さんは若かった。いまのお兄さんは大人の男になって、立派な父親になっている」
姉と一緒だった日と、妹と一緒にいる今はまったく違う。故に、いまはおまえを愛していると彼が言おうとしているのはカナもわかっている。
でもカナが嬉しいのは、そんなことじゃない。
「なにもかも信じていたでしょう。あの日。義兄さんはあの日、本当に幸せそうだった。私もだよ。新しいお兄さんが来て、綺麗なお姉さんと、可愛い甥っ子。ずうっとその仲間でいられると思っていたんだもの。あの時の義兄さんの笑顔が好きだったんだもの」
義兄がまだ戸惑って、そしてカナの言葉を否定し、あの日をなかったように忘れたいのか、拒否するように首を振っている。
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