16.金春色の、お日柄に

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「わたしが山口に帰ってきてから、髭はやめちゃったね」  一緒に暮らしてきた五年の間、義兄はずっと無精髭のスタイルをやめなかった。だから、彼がカナの肌を愛撫する時は、いつもぞりぞりとした感触はあたりまえだったのに、それがなくなってしまった。どちらでもいいけれど、やはり少し寂しい……。 「おまえが、髭に慣らさせておいて、今更つるつるの顎なんて――と言ったことがあるから、休みの日はそのままにしているだろう」  でもカナも気がついてしまったのだ……。 「耀平兄さん、もしかして……。笑えなくなったから、髭をはやしたりしたの?」  小樽にカナを迎えに来た時。大人の清々しい男だった義兄が、しかめ面の険しい男に変貌していた。目つきもそうだし、髭もそうだし、頬も身体も痩せていた。カナが山口に帰ってきてから、彼は髭をはやさない。そこにいるお兄さんは、昔、カナが一発で惚れ込んでしまったあのお兄さんに戻ろうとしていた。  どうして髭だったのか。耀平が、髭のない顎をなぞって静かに微笑む。
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