16.金春色の、お日柄に

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 彼との愛欲にまみれた身体から、その全てを削ぎ落とし、カナはただ生物として生きることだけに純粋な生き物になって、この海を見据えていたあの日。 「カナ」  フロックコート姿の彼が、潮風にジャケットの裾を翻しながら階段を下りてくる。 「どうした」  夫になった彼がカナと並んで、一緒に遠浅の海の向こうを見つめてくれる。 「春だね」 「うん。海は春の色になっている」  この海を毎日見ているから、わかる色合い。  彼の手が、指輪をはめてくれたカナの手を優しく握ってくれる。  本日は、金春色のお日柄で。  わたしたちの春は、金春色。  義兄とわたしは、夫と妻になる。  わたしはこれからも、義兄と一緒。  花はあなたといきてゆく。   ◆ 黒蝶はひとりでさがしてる  完 ◆ ⇒ 花はひとりでいきてゆく:番外編集へと続きます。 2024年コミカライズ配信記念にて、新作の番外編を追加しています。
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