4706人が本棚に入れています
本棚に追加
/357ページ
彼との愛欲にまみれた身体から、その全てを削ぎ落とし、カナはただ生物として生きることだけに純粋な生き物になって、この海を見据えていたあの日。
「カナ」
フロックコート姿の彼が、潮風にジャケットの裾を翻しながら階段を下りてくる。
「どうした」
夫になった彼がカナと並んで、一緒に遠浅の海の向こうを見つめてくれる。
「春だね」
「うん。海は春の色になっている」
この海を毎日見ているから、わかる色合い。
彼の手が、指輪をはめてくれたカナの手を優しく握ってくれる。
本日は、金春色のお日柄で。
わたしたちの春は、金春色。
義兄とわたしは、夫と妻になる。
わたしはこれからも、義兄と一緒。
花はあなたといきてゆく。
◆ 黒蝶はひとりでさがしてる 完 ◆
⇒ 花はひとりでいきてゆく:番外編集へと続きます。
2024年コミカライズ配信記念にて、新作の番外編を追加しています。
最初のコメントを投稿しよう!