4788人が本棚に入れています
本棚に追加
この日の夜になって、耀平はようやく花南に会いに行く。
小樽駅からさほど離れていない観光地『小樽運河』。そこはとても賑やかで人々で溢れているのだが、市民が住まう坂の多い街に入るととても静かだった。
そんな坂の上にあるアパートに花南は住んでいた。そこから徒歩で、運河観光街からすこし外れた場所にある工房に通っていた。
駅周辺のホテルに泊まり込んでいた耀平は、花南の仕事の邪魔はすまいと思い、夜になるのを待って彼女のアパートを訪ねることにした。
この時も、花南は実家の援助は得ずに、小さな港町でささやかな暮らしをしていた。
もともと華やかさには執着もない義妹だったから、ガラスで暮らしていけるだけの金があれば事足りるのだろう。
新人のガラス職人が得られる給与だって、そんなにいいものではない。下手したら新卒生の初任給を下回る。それでも彼等が技術を追い求めてそれを乗り越えていくのは、そこに職人としての夢と信念があるからだ。義妹にもそれがあった。だから家族はそれを信じて、花南にガラスをさせている。
花南の部屋まで辿り着き、玄関のチャイムを押したがまだ帰宅していなかった。
最初のコメントを投稿しよう!