1.月と花の姉妹

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 だから耀平は『いまでも』、リビングのドアを開ける時は少し躊躇う。もうそうではなくなったのだとわかっているのに。  ドアを開ける。  緑の薫りがするいつもの風がさあっと耀平を包んだ。リビングに風が通る。ダイニングテーブルにいけられている桔梗が揺れ、義妹のスケッチブックがパラパラとめくれる。  庭への降り口に、大きな水鉢。そこに水草と金魚を入れている。義妹がそこに背を丸めて座り込み、じっと覗いているところだった。  義妹の花南を見つけると、耀平は今でもホッと胸を撫で下ろしてしまう。   「カナ、またばてているのか」  職人の工場エプロンをといてソファーに無造作に放っていて、いつもの綿のティシャツにカーゴパンツという工房スタイル。肩より下まで伸びてしまった黒髪を、シンプルにヘアゴムで縛っているいつもの姿の彼女が振り向いた。 「お兄さん、お帰りなさい」 「うん、ただいま。暑いな、山口は」  耀平の首元も汗で湿っている。黒いネクタイの結び目に指を差し入れ、ふっと緩めた。 「冷茶、いれるね」  凍らせて溶けてゆく水が入っているペットボトル片手に、職人姿の花南がふっと立ち上がる。
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