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3.△△年 小樽
××年 小樽――。
義妹に男がいた。しかも別れた後で、男につきまとわれている。
「お帰りください。貴方は妹に迷惑をかけたいのですか。妹を困らせたくて来ているのですか。困らせるから、会ってはくれないのだとは思わないのですか」
「花南が話を聞いてくれるまで、帰るつもりはない」
きっとそう言うだろうと耀平もわかっていたので、それならばと相手の要求の一部を飲むことにする。まずは帰ってもらってからだ、という判断。
「では明日。妹と話す場を設けましょう。それでよろしいですか」
男の顔つきが変わった。急に和らいだ。
「ほ、本当ですか。お兄さん」
怒りを収めた青年は、誠実そうな男だった。
だが、耀平の判断は既に決まっている。どんなに真面目な男でも、怒りで変貌する男は駄目だ。『義妹とは切れてもらわねば』――と。
「ただし。兄の私も同席させていただきます」
「それでも構いません。花南が会ってくれるなら」
「約束します。ですから、今夜はもう」
ようやく男が頷き、アパートの階段を下りていく。
青年が姿を消すまではと思い、耀平はじっと玄関ドアから動かなかった。
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