3.△△年 小樽

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 濃紺のBMWの前で青年が立ち止まり、アパートの階段を見上げた。耀平に会釈をすると車に乗って、そのまま去っていってくれた。  乗っている車のランクといい、スーツも上質なものだった。どうもいいところのお坊ちゃんといった感じだった。状況判断を常に優先するエリート男ならば、もう少しスマートだろうに。好青年とはいえ、どうも子供っぽく感じる男。そんな感触だった。  質素な暮らしをしている義妹が、どうやってそんな上流の男に出会ったのか。  ネクタイを緩め、耀平はふとため息をついた。  花南がどうやってあの男に出会ったのか? そして男はどうして花南に惚れたのか。なんとなく男としてわかる気もした。  一年ぶりに会った花南は、大人になっていた。男がいたせいか、会っただけで耀平にも『女になった』空気が漂ってきていた。着飾ってるわけでもないのに、質素でシンプルな身なりだからこそ、色香が滲み出ていた。そう男に抱かれて培われる女の空気……。  花南のあれに当てられたら、たぶん、断る男はいないだろう。そう思えるものだった。
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