1.月と花の姉妹

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 それと同時に、花南がなにげなく髪をまとめていたヘアゴムをさっと取り去った。  すうっと入ってきた夏風に、湿った義妹の髪がふわりと舞う。汗ばんだ花南の首と頬にぺったりと貼りつく。その毛先が、花南の口元にも貼りついた瞬間、義妹の唇が妖艶に開いた。  つまり。そういう隙――。  義妹はそんなつもりはなくても、そういう隙から女が匂う。計算でもなんでもなく、ただ男をくすぐる自然体を持ち合わせている。  そんな仕草だけでなく、義妹がキッチンへ行こうと耀平の目の前をなにげなくかすめていった時も、その匂いを残していく。  花南は好んでシンプルな白い綿シャツを着ているが、それがまた、しっとりと湿めったせいか、義妹の身体の線をそこはかとなく醸し出す。シンプルだからこそ、胸の線がほのかに現れてしまう。普段はエプロンをしているから気が付く者も少ないだろうが、こうして耀平の目の前ではエプロンも外すのでよく目にすることだった。  そういう義妹を欲して、何度、無理矢理に求めたことか……。耀平はいつも思う。そんな時がいちばん狙われているだなんて、義妹はまったく気が付いていないようで、本当に『隙だらけ』だった。
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