3.△△年 小樽

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「兄に言われて、自分の人生を決めるような妹ではありません。むしろ、ガラスをやりたいと家族に黙って小樽に行く準備をしていたぐらいです」  目の前の父親だけが『ほう』と感心した顔を見せた。なのに、夫の反応にムキになったのか、溺愛ママの顔が歪んだ。 「ガラス職人ごときのお嬢様では、我が家の嫁は務まりません」  ガラス職人ごとき? 耀平は片眉をそっとつり上げた。このガラス職人である親方を目の前に、そういう物言いをする人間という嫌な気持ちだった。  この人達が造り出した綺麗なグラスや花瓶や食器をこぞって素敵素敵と買えるのは、この人達の創造と技術のおかげとか思えないのか。それとも息子の嫁になる、家族になるとなったら『ごとき』なのか。ガラス職人を家族に持つ耀平には許せない思考だった。 「わたくしども一家は、札幌でレストランや洋菓子店を経営しておりまして、店舗を幾つも出しています。息子はその跡取り息子です。それを……急にこちらのお嬢様に夢中になって、結婚をしたいとか。収入も不安定な職人さんでしょうから、うちの家を目当てにされても困りますの」
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