3.△△年 小樽

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 妹が金持ちの家を後ろ盾にしようとしたら困るとあからさまに突きつけてきた。だが、耀平は静かに返した。 「ですが妹からは断ったと聞かされています。いつまでも妹に会いに来ているのは、息子さんのようですよ。諦めるのはそちらではありませんか」  母親がカチンとした顔を見せた。 「失礼ですが。お兄様はどのようなお仕事をされているのですか」  隣で人の好い親方がハラハラと落ち着きをなくしていた。母親が値踏みをするようにして、黒いスーツ姿の耀平をじろじろと眺めている。 「観光の仕事をしております会社員です」  勝ち誇った笑みを母親が見せた。思った通りの反応で、もう相手にしたくもないと耀平は素性は言わないでおこうと決めた。 「困りますの。こちらではきちんとしたお家柄のお嬢様をいただこうと思っていますので」 「そうでございましょう。妹には二度と会わないよう、私からもきつく言っておきましょう。それでよろしいですか」 「きっとですよ。お兄様」
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