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父親が手に取り、母親が眺めた。『代表取締役副社長』という肩書きに気がついたのか、両親が驚いた顔を見せた。
「ホテルの経営を……」
ずっと黙っていた父親が、仕事人の顔で耀平に尋ねた。
そして母親はまだ耀平を睨んでいた。
「まあ、聞いたことがないホテルですわね」
そうでございましょう。ここは北海道、瀬戸内日本海に来ることもそれほどないでしょうから……と言い返したいが、耀平は頑として口を閉ざす。言えば、嫌な言葉が返ってくるだけ。こういう人間は言わせるだけ言わせて、相手にしないに限る。
だが負けず嫌いの母親の言い様に堪りかねたのか、隣にいる親方が擁護に乗り出した。
「お祖父さんの代から受け継がれているリゾートホテルです。他にも、料亭旅館に、瀬戸内海の結婚式場など。手広く経営されているんですよ。お兄さんはそちらの三代目、山陰の資産家です」
やっとあちらの両親が絶句した。
「いえ、私は花南の姉の夫で、婿養子であるだけです。ですが妻が早くに亡くなりましたので、いまの跡取り娘は妹の花南になります」
そして耀平は慇懃無礼な念書を、そっと突き返した。
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