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親から聞いたのだろう。花南の素性を。敵わない女だったと思って、ようやく諦めがついたのだろうか。つまり、彼も花南を見下していたのだ。
頼りがいある俺が、家に力のある俺が、幸せにしてやるんだ――と。花南の実家のほうが大きいものを持っていると知って、そんな敵わない庇護がある女に気遣いながらの夫にはなりたくないと思ったのだろう。あの尻敷かれている親父さんを見て育てば、そうかもなと、少し笑えた耀平だった。
四時間待って、青年はついに花南に会いにはこなかった。
安心したが、耀平の中では最低の烙印を押していた。夢中になった女、結婚して欲しいと一ヶ月もつきまとった女。花南が山陰の資産家の娘だと知って、恐れを抱いた途端に、会えなくなる男だったのかと、また怒りが湧いた。
そんな男に身体を明け渡していた妹の、不甲斐なさにも腹が立つ。
四時間も待てば、花南もひとりを持て余して、いつのまにか耀平がいた席に来ている。そうして向き合っているけれど、じっと無言でいる義兄を見て、花南は気後れした顔で話しかけてこない。
もう夜が更けてきた。耀平は読んでいた経済雑誌をテーブルに放った。
「帰るか。もう会いに来ないだろう」
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