1.月と花の姉妹

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 そうして、無自覚の色香を匂わせて、義妹は義兄を虜にした。それは、一緒に住もうと強引にこの家に連れ込む前からだった。  妻も気が付いていた。『カナは隙があるのよ。可愛いでしょう』。  若い頃、新婚の頃、耀平にはわからない言葉だった。その時、耀平には、何事もそつなくこなす清楚で華やかな妻しか見えなかったし、まだ十九歳だった義妹の花南は幼く見え、とても『女』とは言い難かった。  ただ、ドキリとしたのは、やはり義妹が汗まみれで吹き竿片手に熱したガラスに向かっている時だった。幼く見えた顔が大人びて、そして息を吹き込む唇には艶があった。真剣な顔が大人に見えたといえばそれまでだっただろうが、いま振り返ると、あの頃から義妹の花南の微かな香りを感じていたように思える。 「ヒロに工房から追い出されちゃった。邪魔だ、スローな奴は外れてくれって」  極寒の富士での灼熱工房と、盆地残暑の灼熱工房では、やはり違いがあるようだった。 「でもいいの。あれもきっと、ヒロの気遣いだろうし。親方らしい言い方だよね。二人だけの時ならなあなあでもよかったけれど、いまは若い彼等もいるから示しがつかないし」
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