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帰りは小樽運河をふたりで散歩しながら帰る。
夜明かりの中、静かな運河に浮かび上がる岸辺の煉瓦倉庫。夜になっても運河沿いを歩く観光客が多く、ガラス店が並ぶ通りはいつまでも賑わっている。
その間、特にふたりは言葉を交わさなかった。静かにただふたりで並んで歩く。
元々、花南も耀平もそうお喋りではない。話したい時に話せて、その間も苦に思うこともない気易さがあった。
もうすぐ小樽駅近くにあるホテル。そこで坂の上に住まう花南と別れようとした。
「明日、小樽の他の工房を見て、札幌に移動する」
「そうなんだ。……ごめんね、わたしのことでゆっくりできなかったね」
「いいや。来て良かった。カナちゃんが一人でなんとかやってやろうという気概も見られたし。でも、まだうまくいかないことがあって当然だ。だから、そんなにひとりで頑張らないでほしい」
うん、わかった――と、花南が頷く。
そんな花南に耀平は、預金通帳とカードを差し出す。
「カナちゃんが嫌がるのは承知で持ってきた。半年に一度、帰省する時に必要な金額だけ振り込む。だから、年に二回、小樽運河の閑散期には帰っておいで」
「でも……」
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