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「自力で働き始めて、まだ一年。一人前にもなっていないのに、意地を張るな」
無理矢理、握らせた。
「お守りだ、いいな」
花南がやっと頷いて受け取ってくれる。しかも、きちんとお辞儀をしてくれた。
「有り難う。耀平兄さん……」
顔を上げた花南が涙を少しだけ浮かべている。でも、笑ってくれる。
「なんか。お姉さんがいるみたい」
「そりゃな。俺は美月の分も兄貴をしようと思っているからな」
「うん。本当のお兄さんだったね。助かりました」
「俺のこと、家族だと言ってくれただろう。だから……、航にも会いに来てくれ。俺も、今度は航を連れてくる」
「ほんとう? 楽しみにしているね」
煉瓦の倉庫が並ぶ運河を、ふたりで静かに歩き出す。
花南とはそこで別れた。あっさりとした別れだった。
でも、静かな坂の街へと帰っていく花南の後ろ姿を、耀平はいつまでも見送っていた。
会えて良かったのか、悪かったのか。随分と心をかき乱されている。
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