3.△△年 小樽

25/26
前へ
/357ページ
次へ
 航は花南を慕っている。航の為だけじゃない。俺が、もう一度、花南と息子と暮らしたい。  この家に、他の血は入れない。決して……。航のものだ。   小樽 大沢ガラス工房 遠藤親方 倉重でガラス工房を立ち上げることになりました。 花南をそこで活動させようと思います。 一年後、引き取りに行きます。花南にはまだ伏せておいてください。 それまでに、製品の技巧を叩き込んでやってください。    最初は渋っていた親方を、なんとか説得することができた。    △△年 小樽――。  雪が降る小樽にいた。  黒いコートに小雪がまとう。凍てつく空気が、さらに耀平の決意の矛先を鋭く研ぐ。  妻に裏切られ、妻と決裂し、彼女は死んでしまった。  遺された息子の父親が誰か判らず、自分の血の繋がった子供ではなかったことが、愛おしいから余計に口惜しい。  ささくれた気持ちを蓄えすぎて、少しばかり痩せてしまった。痩けた顔のイメージを変えるため、髭を残すスタイルに変えた。  きっと義妹は、こんな様変わりをした義兄を見て驚くだろう。  真っ白な街の片隅にあるガラス工房で、久しぶりに花南に会う。 「帰るぞ、カナ。山口でガラスを造るんだ」
/357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4791人が本棚に入れています
本棚に追加