1.月と花の姉妹

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「そうだな。そこは俺も安心して任せている。雑貨店を始めたから、生産ラインのスピードも以前とは違う」  大学の気が合う同期生が二人きりで、マイペースに生産をしていた工房とはもう異なる。親方に据えたヒロは、そのペースをうまく造り出してくれていたが、突然帰ってきて、工房に戻った花南にはまだ掴めないペースのようだった。 「湖畔でも生産していたけれど、ショップ一店を抱えていると全然生産量が違って驚いた。なのにヒロは、ペースを緩めることなく、寸分違わぬといっても過言ではない製品を大量に作り出すんだもの」 「それがヒロの良いところで、店を支えているところでもあるな」  まだ地元の気候に戻れない身体と、変貌した工房の生産ラインに乗れず、花南はこの頃帰ってきた自分を持て余しているところがある。  それでも。キッチンで湯を沸かし、緑茶を急須にいれ、ガラスの茶器を準備しながら、なんともない微笑みを見せてくれる。  湿った毛先が揺れるたびに、彼女の皮膚の匂いと、彼女が好んでいる香りがする。その背後に耀平はそっと近づいた。そして湿っている黒髪をそっと手のひらに乗せて眺める。 「髪、伸びたな」
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