4.○○年 山口

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 互いの秘密を握りしめて、互いに『決して言うものか』と心を硬くしながらも、彼女の身体の甘さに溺れて。秘密の上で、結婚をしようとしていた。  だが『勝手に俺のものにした』のだから、許されるわけもなかった。  秘密を抱えた彼女と秘密を握っている義兄の関係だったから、『偽りは偽り』。向き合うことから逃げてたふたりだから、あっという間に壊れた。  本当のところで、まったく交わっていなかった関係は、一度離れた彼女は遠ざかるばかりで、もうどこにも見えなくなってしまった。  耀平にあの匂いだけが残って。生身のぬくもりは、もうどこにもなくて。また二年、キリキリと心を痛め、苦しい日々。あの義妹のこと、もう男がいるかもしれない。男が放っておかない。花南ももう帰ってこないだろう。  なのに。耀平は待っていた。もう勝手に連れもどす荒っぽいことは二度もできない。彼女が帰ってきてくれるまで、待っているしかない。  それが。身勝手に義妹を手に入れた狡い男に下った罰だった。    ―◆・◆・◆・◆・◆―    ――義妹が、山口に帰ってきた。    花南が義妹になって、十六年。
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