4.○○年 山口

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「そろそろ秋の炊き込みごはん? サンマとか。まだ茄子は美味しいかも。茄子の鉄火味噌とかいいかな……」  もう耀平の喉がごくりと鳴った。 「おまえの鉄火味噌の茄子、うまかったな。あれがまた食べられる日が来るとは……」  手元もおぼつかないほど料理ができなかったのに。耀平と暮らした五年間で、花南はだいぶ上達してくれた。  そのうまいメシともいきなり別れたんだよなあ……と、妙な苦さも思い出してしまう。 「秋といえば、シメジの炊き込みごはんを食べたいけれど、まだ早いものね。富士山のキノコは美味しかったな……。親方も勝俣さんも、すごく褒めてくれたご飯。親方が秋になったらキノコの農家を探して買ってきてくれて、『花南、また作ってくれ』なんて頼まれたほどで。それで、兄さん達みんなで食事して……」  懐かしい富士五湖の日々を、侘びしくて苦しかっただろうに、花南はそうして楽しそうに思い出すことがある。  そして花南もはっと我に返った顔になる。耀平が知らない日々を語ってしまうことに、遠慮しているのだろう。 「そっか。俺も富士山麓のキノコで食べてみたかったよ」
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