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小樽の親方は温厚そうに見えて、ガラスを見定める時になるとあの暖かい眼差しが瞬時で凍るのだとか。そして、駄目なものはいっさいの迷いもなく、容赦なく割り砕くという。花南がそれを受け継いでいる。
湖畔の芹沢親方も、あの厳つい顔で寡黙にガラスに向き合っている。あの険しい環境で、独り身で、いっさいの無駄な感情を削ぎ落とし、最後に残った『芯』を剥き出しにさせてガラスに向かう。花南もそれに近いことをしていたが、あの環境でさらに磨きがかかり、ついに『プロ』になれたのだと思う。
俺は、花南になにをしてやったのだろう。花南が帰ってきてからふとそう思っている。あんなに素っ気なくて天の邪鬼だった義妹が、実はこんなにも愛してくれていただなんて……。その愛を抑えに抑えて、秘密のバランスを保ってくれていたのは花南だった。すべては、航のため、そして家族のため、最後は俺のために。
俺は愛されているだけだ……。そう思ってしまう。
茸でムキになった自分を誰か笑ってくれという自虐が湧き、耀平はタブレットを放った。
さあ。もう仕事に行こう。今は帰ってくれば、花南の美味い飯が待ってくれている。それでいいじゃないか。
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