4.○○年 山口

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 黒いジャケットを小脇に抱え、まだ残暑の日射しが強い外に出る。  ガレージに入れた車を出そうとして、既に熱風が漂っている工房へと耀平は歩み寄る。  親方になってから、ヒロは作務衣(サムエ)を着るようになり、どっしりとした職人の風格が備わってきた。寸分違わぬものを、高品質で大量に生産する。しかも、どれも人が使うことを気遣ったものばかり。手際の良い作業を見ていると、小気味よい。  対して『お嬢さん』と職人に呼ばれている花南は、製品を作り出すには少しマイペースだが、風変わりな商品を次から次へと生み出す。パワフル。かと思えば、伝統的な切子をやらせると、とても洗練されたものを造り出す。小樽の師匠に叩き込まれ、最後の一年の半分はグラインダーばかりやらされたようだった。これも師匠から受け継いだ技。この工房で切子をやらせたら、花南の右に出る者はいない。  萩の工房と、山口の工房。近頃は競い合って、助け合って、倉重の新しい名物になっている。  これらを守るために、耀平は今日もあちこち駆け回り、グループという大きな箱を上から見下ろして、どこも不具合がないか目を光らせなくてはならない。
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