1.月と花の姉妹

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 義妹が静かに振り返った。なんとも感じていないような、冷めたような目で。だけれど、義妹らしい目だと感じると、本当にこの扱いにくかった義妹が帰ってきたのだと実感してしまう。 「そうだね。伸ばしっぱなしで、傷んできたよね」 「前の美容室はもういけないのか」 「そんなことないよ。帰ってきてから、いろいろ忙しかったから……」  この家にいた時は、わりとこまめにカットに通っていた。なのに、富士の湖畔から帰ってきた義妹は以前よりずっと女の嗜みに関してかなり無頓着になっていた。  あの村では街中にあるような美容室もなかっただろうし、あの質素な暮らしをしているうちに、花南の中から『女性の身だしなみ』が後回しになり、それに慣れてしまったようだった。  そこに『ひとりで生きていた』義妹だけの時間を感じてしまう。耀平が知り得ない、踏み込めない時間がある。  でも、耀平はそれで良かったのだといまは思う。一緒に暮らしていた時は、花南から何かを奪っていたような気がしていた。義妹だけの時間を経て、彼女はそれでもここに帰ってきてくれた。耀平が強制したのではなく、花南が耀平のところに帰ってきてくれたのだから。
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