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5.私が父親です
その人は、冷たく耀平を見つめていた。
「息子のことで、お聞きしたいことがあり参りました」
綺麗な会釈に品がある。女将として挨拶をしてくれた時も、そう思っていた。
そして。耀平も、もう逃げられないと腹をくくる。
「遠いところをわざわざ、ご足労頂きまして――」
「いえ。早朝に申し訳ありません。おでかけになるところでしたね。ひとまず、帰らせて頂きます。ですが……」
わかっている。『それならば、いつ会ってくれるのか。話を聞いてくれるのか』と問いかけられている。
「本日は、この家に十九時には帰ってくる予定です。他ではお話が出来ません」
「承知いたしました。では、またその時にお伺いいたします」
お互いにわかっているから、言葉少なめでも事は決まった。
だが女将は、そこで立ちつくしていた。それどころか日傘を閉じ、ふっと耀平の向こうへと視線を奪われていた。
「まあ。ほんとうにご自宅に工房が。なんて熱い空気がここまで……」
その目が急に、綺麗に輝いた。冷たい眼差しで人を圧する女性が、ときめきをみつけたように、その視線が華やいだ。
しかもその女将がじっと見つめる先には、花南がいる。
「妹様ですか。まあ、勇ましいこと」
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