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溶解炉に吹き竿を入れ、ガラスを巻き取り、そして花南が竿を吹いているところだった。
下玉造りを終え、また溶解炉からガラスを巻き取る。上玉になる玉を素早くリン紙の上に乗せ、丸く丸く形を整えている。
伸びた黒髪を後ろにひっつめひとつに束ね、白いシャツにいつものカーゴパンツ、そして職人用の工場エプロンの姿。最近は、焼き戻し炉の炎が眩しいからと、工業用の黄色いゴーグルをすることも多くなった。
丸くなった上玉を焼き戻し炉に入れ、くるくると竿を回し、また柔らかくなったガラスを再びブロー。真っ赤なガラスがふっと膨らんだところ。
こうして集中している時の花南は、ここに耀平がいることも、見知らぬ客がいることも気がつかない。
それでも、もし気がついたら……。花南は一目でこの女性が誰なのかわかってしまうのだろうか。耀平はヒヤヒヤしている。
気がついたのは『ヒロ』だった。藍色の作務衣に、染めの手ぬぐいを頭に巻いた親方のヒロが、こちらにやってくる。
「社長。お客様ですか」
見学者なら、俺が……と気遣ってくれたのだろう。だが、耀平は短く答える。
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