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予定の時間を少し過ぎた。もしかすると、もう女将は訪ねてきていて、花南と対面しているかもしれない。
ああ、帰宅は二十時にしておけば良かった――と、耀平は車をガレージに入れず、垣根に停めて家の中へと急いだ。
もし、来ていたとしても、ヒロと舞がなんとか花南を助けてくれるだろう。だからヒロに『頼む』と託したつもりだった。
玄関を開ける。すぐに置かれている靴を確かめたが、和装の草履はなくてホッとした。
だが、リビングへのドアが直ぐに開き、今にも泣きそうな花南が駆け寄ってくる。
「兄さん。金子さんのお母さんが来ていたって本当なの? 仕事が終わってからヒロが教えてくれて……」
さすが、同期生。仕事が終わってから告げるべきという判断をしてくれていた。それでも夕刻に聞いたばかりで、花南の動揺は尋常ではなかった。
「大丈夫だ、カナ。俺が話すから」
花南が首を振る。
「そんな甘えたことできないよ。できない……、できない……。だって、最後に会ったのはわたしなんだから……。止められなかったのは、わたしなんだから!」
まだ職人姿のままで取り乱す花南を、耀平はひとまず抱きしめた。
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