5.私が父親です

4/16
前へ
/357ページ
次へ
 予定の時間を少し過ぎた。もしかすると、もう女将は訪ねてきていて、花南と対面しているかもしれない。  ああ、帰宅は二十時にしておけば良かった――と、耀平は車をガレージに入れず、垣根に停めて家の中へと急いだ。  もし、来ていたとしても、ヒロと舞がなんとか花南を助けてくれるだろう。だからヒロに『頼む』と託したつもりだった。  玄関を開ける。すぐに置かれている靴を確かめたが、和装の草履はなくてホッとした。  だが、リビングへのドアが直ぐに開き、今にも泣きそうな花南が駆け寄ってくる。 「兄さん。金子さんのお母さんが来ていたって本当なの? 仕事が終わってからヒロが教えてくれて……」  さすが、同期生。仕事が終わってから告げるべきという判断をしてくれていた。それでも夕刻に聞いたばかりで、花南の動揺は尋常ではなかった。 「大丈夫だ、カナ。俺が話すから」  花南が首を振る。 「そんな甘えたことできないよ。できない……、できない……。だって、最後に会ったのはわたしなんだから……。止められなかったのは、わたしなんだから!」  まだ職人姿のままで取り乱す花南を、耀平はひとまず抱きしめた。
/357ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4819人が本棚に入れています
本棚に追加