4822人が本棚に入れています
本棚に追加
息子の遺体を引き取りに来た母親と弟の嘆き悲しみを刑事から聞いた時も、『そちらから説明したいという意志はございませんよね』と再度問われ、『ありません』と答えてしまったのは耀平だった。花南はすでに小さな荷物をまとめて、出て行った後だった。
刑事は遺族に『異性関係のもつれによるトラブルです。息子さんに落ち度はひとつもありませんでした。証言は、その女性の家族が……』と説明してくれたようだった。
当然。『その女性は誰か』と女将は刑事に追及したという。もしそう言われたのならば、こう答えてくださいと刑事にそこだけは明かして良いと伝えている。
それは『男性二人の間で争う原因になった女性は人妻です。すでに亡くなっており、証言はその奥さんのご主人がしてくださった。それ以上は、あちらが伏せて欲しいと……』。
きっと聡明な女将はそれだけで察したはず。息子とその関わった女性は『後ろめたい関係だったかもしれない』と。こちらもあちらも、堂々と明かされては困る状態にある。
そこは、『体裁を気にする商売』をしている者同士。きっとわかってくれると耀平は確信していた。
最初のコメントを投稿しよう!