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ようやく秋がやってきました。
背の高いうすむらさきの花は、しかと塀から小さな顔をのぞかせています。
かかさず毎日、窓の外を眺めていたわたしは、あなたを待ちわびていました。
もう九月も終わりです。夏休み以降、まるでこちらには姿を現さなかったので、諦念を持ちつつ、それでもすこしの期待を胸に、あなたの姿を待っていました。
そして、いま――
わたしの瞳は、ついにあなたの姿を映したのです。
横にのびる道。右手からやって来るあなたの顔が、幾分かおとなびて見えて、うれしい気持ちになって、だけど、ちょっとだけ複雑な気持ちが芽生えて……。
家の前を差しかかると、あなたは少しだけ歩みをゆるめて、左手をちらっと見ました。あなたが、わたしのシオンを目にしたのです。
そこに咲いたのは、ちいさな微笑みでした。
その瞬間、わたしは、なぜか胸の奥からこみあげて目に溢れるものを、おさえられなくなりました。
なにもかも、あなたのせいです。
すくわれた、むくわれた、そんな気がしたのです。
あの事故以来、わたしのからだは病床にあります。
いつ消えてもおかしくない、わたしの灯を、なんとかつなげていたのは、とてもくだらない想い。妄想から生じた、あなたへの一方的な執着――恋心にすぎませんでした。
「シオンが好きだ――」
もう一度、その口から聞きたかった。花が咲いたところで、あなたがそれを見たところで、そんな言葉が都合よく出てくるはずがないというのに。このバカは、なにを期待したのでしょう?
わたしは目もとをこすって、笑いました。
消えゆくわたしは、最期にひとつだけ、あなたに訊きたい。
「あなたは、ほんとうにシオンの花が好きで、あのとき、そう答えたのですか?」
あれは、何気なく発した言葉だったのかもしれません。けれども、わたしは、もしかしたら――と思ってみた。思っていたかった。
心のすみっこに置いた、身勝手で、ちょっとおばかな考えが、妄想が、わたしのほんの数年を特別にしていたのかもしれません。
ありがとうを伝えられないかわり、なにもあげられないわたしの言葉にかえて、そのささやかな色と香りを、あなたへ。
シオンの花言葉は「追憶」、また「遠方にある人を思う」。
そして、「君を忘れない」――。
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