ソウルの夜

14/51
3172人が本棚に入れています
本棚に追加
/308ページ
. 絢音さんの頼もしい背中を追いながら、タクシー乗り場へ向かうために外に出ると、少しひんやりとした空気が頬をかすめた。 昼間はまだ汗ばむことがある東京とは違って季節先取り。 もう少し厚めの上着、持ってくれば良かったかも。 でもライブで熱くなるから、大丈夫かな。 「衣咲ちゃん、荷物トランクに入れてくれるって。」 「あ、はい!」 行商人のキャリーケースを渡し、後部座席へと乗り込む。 メモと英語と、簡単な韓国語を交えながら、絢音さんがドライバーさんに行き先を告げ、タクシーはいざ目的地であるライブ会場へ出発。 見るもの全てが新鮮で、気づけば口が開いたまま、外を夢中で眺めてしまう。 隣でSNSを駆使し、ライブ会場の状況をぬかりなく調べている絢音さんが、視線を画面に落としたまま、不意に訊いてきた。 「……衣咲ちゃん、平気?あの女、敵対心剥き出しだからさ。特に衣咲ちゃんには。」 「やはり、分かりますか?」 ヨンギュのことしか考えていないように見えて、周りのことちゃんと把握しているんだな。 その辺りが、営業部のエースの名立たるところ。 .
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!