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絢音さんの頼もしい背中を追いながら、タクシー乗り場へ向かうために外に出ると、少しひんやりとした空気が頬をかすめた。
昼間はまだ汗ばむことがある東京とは違って季節先取り。
もう少し厚めの上着、持ってくれば良かったかも。
でもライブで熱くなるから、大丈夫かな。
「衣咲ちゃん、荷物トランクに入れてくれるって。」
「あ、はい!」
行商人のキャリーケースを渡し、後部座席へと乗り込む。
メモと英語と、簡単な韓国語を交えながら、絢音さんがドライバーさんに行き先を告げ、タクシーはいざ目的地であるライブ会場へ出発。
見るもの全てが新鮮で、気づけば口が開いたまま、外を夢中で眺めてしまう。
隣でSNSを駆使し、ライブ会場の状況をぬかりなく調べている絢音さんが、視線を画面に落としたまま、不意に訊いてきた。
「……衣咲ちゃん、平気?あの女、敵対心剥き出しだからさ。特に衣咲ちゃんには。」
「やはり、分かりますか?」
ヨンギュのことしか考えていないように見えて、周りのことちゃんと把握しているんだな。
その辺りが、営業部のエースの名立たるところ。
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