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晴れ渡った、雲一つない快晴の空のように、清々しく軽やかな心。
仕事帰りに、チケ代の支払いに行かないと……。
自然とにやけてくる顔を抑えつつ戻っていると、向かいから、この世の終わりのような暗い顔をした人物が近づいてくる。
それは、私もよく知る人物で……。
この会社の営業部の女性エース、小森絢音さん。
大手のクライアントとの商談を何件も成功に導いた、通称「営業の魔術師」。
クールでカッコイイ大人の女性で、男女問わずに憧れる人は数知れず……なのだけれど。
死にそうな表情をした彼女は、擦れ違いざま立ち止まる。
そして、私の耳元でそっと問いかけてきた。
「……衣咲ちゃん、例の件……どうだった?」
例の件、と言われたら……。
勿論、あの件しかないですよね。
その表情ってことは、絢音さん……
「……絢音さん、もしかして駄目だったんですか?」
「うん。今回は、流石に厳しい戦いだったわ。覚悟していたんだけどね……」
今まで完全無敗の絢音さんが、珍しく弱音を吐く。
そこまでに手強い戦いだった……けれど。
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