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「く、苦しいです・・・・・・!」
次々に乗せられる上着に耐えきれずに訴えると、「あ、ごめんごめん。やりすぎた」と言う声と共に上着が退けられる。
やっと視界が確保され、寒さからも開放された優太の目の前にあった顔は、予想通りの人物だった。
「雪さん・・・・・・助けてくださってありがとうございます」
先程の「寒い」の声の主、雪に優太は礼を言った。実際、あの声によって優太は凍りかけたのだが、しかし、もしもあのままマオに襲われていれば凍りかけるどころではすまなかったかもしれない。
「色々とやりすぎちゃったけどね。今日、狼男さんはいないの?」
「本日はまだ来られてないです」
「あー、そっか。それでこんな惨劇に・・・・・・」
雪の言う通りだ。狼男──ロウがいる時にはまず、マオが暴走しまくる前に腕力でマオを止めて優太を守ってくれるし、雪がやって来た時には体温が高いロウが優太を抱きしめて守ってくれる。──字面が凄いことにはなっているが、兎角ロウがいるのといないのとでは騒ぎの大きさが違うのだ。
そのロウは満月の日以外は毎日欠かさず、いつも一番乗りの天の直後くらいに来店するのが常だった。それなのに、今日は満月でもないのに何故かまだ来ていない。
「残業ですかね?」
「いや、ロウの場合道路閉鎖の時間制限があったりするからね。大体十七時か十八時くらいには終わるはずだよ」
「それでいつも来られるの早いんですね」
「そ。にしても、ロウ遅いねえ。家で眠りこけてるのかな」
「いつもお疲れですもんね」
優太はそう言いながらカウンターの中に戻った。店内が凍りついて溶けた事によってカウンターも、カウンターの中もビショビショになっていた。急いでタオルを手に取り、カウンターから出て「失礼します」とグラスなどを退かしながら机上を拭いていく。
と、その時、扉についているベルがチリンチリンと鳴った。お客様が来店された合図のそれに、優太は反射的に「いらっしゃいませ」と言おうとした。
言おうとしたが、その前に「ゔわぁぁぁ!?」という悲鳴が優太の口から飛び出した。
何故なら、ベルの音とほぼ同時に、目の前のカウンターの上に人の生首が転がり落ちてきたからだ。
「うわっ、うわぁぁぁ!?」
人の生首が突然目の前に転がってきてパニックにならない人なんて、きっといないだろう。早い話、優太はパニックに陥った。
──何だこれ!? 生首!? まさか、じっ、事件・・・・・・!?
「け、警察・・・・・・!!」
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