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「落ち着いて、ユタくん」
「これが落ち着いていられますか!!」
優太はパニックに陥りつつも、至極真っ当な返答をした。
職場に突然人の生首が飛び込んできたりしたら落ち着いていられるわけが無い。黒曜ですら猫の姿になって毛を逆立てている。
事件も事件、警察も真っ青の大事件だ。
ここがあやかしによるあやかしの為のBarでなければ。
「本当に落ち着いて。この人、あやかしだから」
「・・・・・・っ、」
「落ち着いた?」
「な、なるほど。あやかしですか。ビックリした」
「あやかしだから、で納得するようになっちゃったねえ」
成長したと言うべきか、はたまた人間離れしたというべきか。
それはわからないけれど、もう長くあやかし達と関わってきた優太には、変な慣れがついていた。
「首だけのあやかし・・・・・・あの、神隠しされた先でいたやつとかですか? 跳ねるやつ」
「いや、違うね。だったら人数足りない」
「判断基準そこですか!?」
「あと、この人女の人だし、あと本来なら胴体があるはずなんだよね」
「この人は何の・・・・・・」
ヂリンヂリンヂリン!
何のあやかしですか、と聞こうとした優太の声を遮るように激しく入口のベルが鳴ってドアが開いた。それに黒曜がフシャー! と怒った。
「おい、九条!!」
「ドアが壊れるから静かに入ってきてっていつもマオに言ってるの聞いてるよね、ロウ」
「それどころじゃねえよ! 今、首が飛んで・・・・・・」
「仕事、クビになったの?」
「ちっげえよ!」
ロウは店内を見回しながらつっこんだ。首。もしかして。
「こちらですか?」
優太はその場を退き、恐らく優太によってロウの死角に入っていた首を見せた。
「ああ、それだそれ!」
「これ、ロウさんの・・・・・・え、まさか・・・・・・ご飯・・・・・・?」
「んなわけあるか! これはな」
そう言って、ロウは先程転がり込んできた生首を持ち上げる。それと同時にまたドアのベルが鳴り、お客様の来店を報せた。
「いらっしゃいま」
入ってきたお客様を見て、優太はぎょっとした。辛うじて悲鳴は飲み込んだものの、ついでに挨拶も飲み込んでしまったので少し遅れて「・・・・・・せ」と言った。
それでも、優太は後に悲鳴をあげなかったことと、何とか挨拶を最後まで言ったことを自画自賛した。
なぜなら入ってきたお客様は、生首の逆──首なしの体だったから。
──ひえええ!
「ああ、来たか。あったぞ、頭」
そんな優太の内心も知らず、ロウがその首なしの体に声をかけた。
「もう落とすなよ」
ロウが生首を首なしの体に手渡した。成程、生首は首なしの体の方の落し物か。なんて物騒な落し物をしてくれているんだろう、と優太は思った。
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