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優太はおずおずとロウに話しかけた。
「ロウさん、その方はロウさんのお知り合いですか?」
「ん? ああ、こいつはさっき知り合ったんだ。困っているようだったから助けた」
「ああ! 良かった。ありがとうございます、心優しい男性の方」
おっとりとした、優しげな女性の声がロウの向こう側から聞こえてきた。見ると、先程の生首を体の上に付けた女性が穏やかに笑っていた。
「この方は私が泣いているところに声を掛けてくださったの。それなのに、私ったら驚いて首を落としてしまって。ビックリさせてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って、女性はぺこりと頭を下げた。黒いミディアムショートヘアーの綺麗な髪がさらりと揺れる。
「あ、いえ! 全然大丈夫です!」
「まあ、ロウみたいな怖いおっさんに声をかけられたらビックリもするよねえ」
「おい、どういう意味だ九条」
「言葉通りだよ。ロウってば顔怖いんだもん。もっと柔らかい感じに出来ないの?」
「うっせえ! この顔は生まれつきだ!」
そんな九条とロウの言い合いを見て、女性は口に手を当ててふふ、と笑った。凄く上品な仕草をされる方なんだな、と優太は改めて女性をしっかりと見た。
先程は首だけだったし体だけだったしで気が付かなかったが、女性は三十代前半くらいの落ち着いた雰囲気のかなり綺麗な女性だった。どこかのお嬢様と言われてもおかしくない。
「えっと、先程泣いていた、と仰っていましたが、大丈夫ですか?」
優太は女性を驚かせてしまわないよう、少し控えめに声をかけた。すると、女性は一瞬目を丸くしたあと、ふわりと優しく微笑んだ。
「お心遣いありがとうございます。とてもお優しい方なのですね」
「いえ、そんなことは・・・・・・すみません、立ち入ったことをお聞きして」
「とんでもありません。実は、失恋をしてしまいまして」
そう言って、女性は睫毛を伏せた。
「私が悪いことは分かっているので、泣いていてはいけないと思いつつ、思わず。ですがもう、大丈夫だと思います」
大丈夫だと思います、と言いながらも女性はどこか寂しげだった。自分が悪いと言ったが、優太にはこの女性の何処に悪い部分があるのか検討もつかなかった。こんなにお淑やかで穏やかで、何かは分からないけど自分に非があると認め、それでいて気丈に振る舞う人なのに。
だけど優太は何も言えなかった。なんて言えばいいのかわからなかった。こういう時、なんて声を掛けるべきなのか──。
「ぞうだっだのぉぉぉ!!」
どうしようと悩む優太と女性の間に沈黙が生まれてしまいそうになったその時、背後からすごい声が聞こえてきた。振り返ると、一部始終を見ていたマオが化粧をグチャグチャにして泣いていた。
その様はさながら怪物のようであり、優太はまたひとつ悲鳴を飲み込んだ。
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