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マオはそのまま凄いスピードで女性に近づき、手を取った。流石にこれは怖いのでは、と思って優太は女性を見た。怯えていたらマオを何とか引き離そうと思っていた。
が、女性はそんなマオを見て、優しく微笑んだ。
「泣いてくださるなんて、お優しいんですね」
そんな女性に、マオは更に化粧を崩した。
「優しいのは貴女よ! 何で貴女のような方が失恋なんて」
「私が悪いんです。私が気を抜いたりしたから。なのでそんなに泣いて頂かなくても私は大丈夫・・・・・・」
「大丈夫なわけないでしょ! 失恋して大丈夫な人なんてこの世の何処にもいないわよ!」
うわああん! と自分のことのように泣くマオに、女性は目を細めた。少し、嬉しそうに。
「そうですね」
ぽつりと、女性は呟いた。それにマオがうんうんと頷いて、その拍子に鼻水が垂れそうになっているのが見えたので慌ててボックスティッシュを差し出したら箱ごと奪われた。
「アタシ、話を聞くことしか出来ないけど、なんでも聞くから」
「ありがとうございます」
「あっ、テーブル席でも宜しければおすわり下さい」
このまま立ち話もなんだと今更ながら思って、女性にカウンター席の後ろにある二人がけのテーブル席を勧めた。それに「ありがとうございます」と小さく言って、女性は席に着いた。その対面側にマオが座ったのでマオの席にあったマロウブルーのお酒をテーブルまで運んだ。
「君はお酒飲める?」
九条がカウンター越しに女性に話しかけた。女性がこくん、と頷いたのを見ると次いで「苦手なお酒は?」と聞いた。それに女性が少し考えたあと「ないです」と答えたのを聞き届けたあと、九条はお酒を用意し始めた。
テキーラとコアントローを棚から取り出し、冷蔵庫からレモンジュースを出す。優太はカウンターに戻ってそれを隣で見つつ、話し始めた女性の話に耳を傾けた。
「私、人間の男性とお付き合いをしていたんです。──あ、お気づきかもしれませんが、私は人ではなくて、その、」
「大丈夫よ。ここはあやかしの為のあやかしBarだから。あの可愛い店員くんを除いて全員あやかしよ」
「じゃあ、貴方やお声掛けしてくださった方も・・・・・・?」
そう言って、女性はロウの方を見た。ロウは定位置に座り、いつの間にかビールを飲んでいた。
「アタシの名前はマオよ。気軽にマオって呼んでちょうだい」
「俺は剛力ロウだ」
「マオさん、ロウさん」
「アタシはこう見えてインキュバスなの。で、ロウは狼男。そこにいるバーテンダーは狐の九条ちゃんで、そこに座ってる小さい子」
「小さくねえ!」
「ふふ。可愛い子は酒呑童子の天ちゃん。雪女の雪ちゃんに、猫又の黒曜ちゃん。みんな、あやかしなのよ」
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