自分の過去を知りましょう。

3/6
前へ
/10ページ
次へ
君が欲しくてたまりません。 *** 琉唯の服やタオルの匂いを嗅ぐ行為は未だに続いていた。本当に麻薬みたいな効果があって、適度に匂わないと落ち着かなくなってしまうんだ。それほどまでに、私は琉唯の虜になってしまっていて。琉唯なしでは生きていられない気がした。あぁ、足りない。琉唯が足りない。全然足りない。琉唯をおかずにエクスタシーを迎えても、いつしか満足できない体になっていた。琉唯。琉唯。私は琉唯をたくさん傷つけて愛して抱き締めて、思う存分琉唯に触れたい。間接的なエクスタシーでは、もう我慢できないんだ。琉唯、早く私のものになって。 ルーズリーフを真っ黒に埋め尽くすほどの愛を私は書き連ねるようになった。学生の本分である勉強なんかどうでもいい。私にとっては琉唯への愛の気持ちの方が大切で、これを全て琉唯に受け取ってもらえるまでやめるつもりはなかった。文字を書きすぎて手が痛くなろうが、同じ字を書きすぎてゲシュタルト崩壊しようが、私には関係ない。ルーズリーフを真っ黒に染め上げるまで絶対に手をとめてやらないから。 私は愛する人の名前を刻み続けた。薬師神琉唯。薬師神琉唯。薬師神琉唯。なんてバランスが良くてかっこいい名前なのだろう。たくさん書けば書くほど琉唯のことが更にかっこよく見え、更に好きになった。琉唯のことを想いながら無我夢中で書き続けたそれを、私は綺麗に折りたたんで誰もいない間に琉唯の机の中に入れた。これを見た琉唯はどんな反応を示すだろうか。字を見ただけで私だと分かってくれるだろうか。もしそうなら嬉しい。琉唯の中に私の筆跡がちゃんと記憶されているのだと感じられるから。全部、全部、受け止めて。私の溢れる想いを受け止めて。琉唯。 琉唯が授業の教科書類を机の中から出す時、入れていた例の紙が床に落ちた。それを怪訝そうな表情で拾った琉唯は、躊躇いがちに紙を広げるなり大きく目を見開いた。普段はクールな琉唯も、ルーズリーフいっぱいに敷き詰められている自分の名前を見たら流石に驚きを隠せないようだ。この後、琉唯はどんな行動を起こすのだろう。黙って捨て去るのか、それとも犯人探しをするのか。分からないと言いたいところだけど、琉唯の性格からして前者の確率の方が高い気がした。何事も穏便に済ませたいと思っているのが琉唯だ。事を荒立てることがない。常に冷静沈着。もちろん、そういうところも好きだった。 周りに見えないように紙を見つめる琉唯に、同じクラスの男子が声をかけた。その声にハッとしながら彼は咄嗟に紙を折りたたんで机の中に戻し、声をかけた人物を見上げた。男子は特に何も気にしていない様子で琉唯と喋り、1人で盛り上がっていた。琉唯は馬鹿笑いするようなタイプではないから、適当に相槌を打ちながら話を合わせている様子で。でも今の彼の頭に男子の話は少しも届いていないだろう。瞳から普通の奴らには分からないような戸惑いの色が見えるから。 そんな機微たる変化も見逃さないほど、私は琉唯の感情がなんとなく分かるようになっていた。誤魔化したって私には通用しないから。もっと困惑させてあげる。それから、いつか苦悶の表情を浮かべてくれるのも待ってる。私は再びルーズリーフを取り出し、琉唯を見ながら心の中で舌舐めずりをして、お気に入りのシャーペンを握り締めたのだった。 私の好きな人が琉唯であることを知っている女友達から、彼にはもう告白したのかと尋ねられた。ちゃんとした告白はしていないけど、きっと琉唯は私の気持ちを知っている。想いを伝える前に牽制されてしまったから。「それっぽいことは言ったけど、まだちゃんと好きとは伝えてないよ」私の言葉に女友達は納得したように頷き、それから明るい笑みを浮かべた。「ゆっくりと距離を縮めていくタイプだね」そんなピュアな夢乃ならいけるよ。エールを送る女友達は、私のことをピュアだと断言していて。表面上は純粋な恋心を演じているけど、裏面上ではマグマの如くドロドロな真っ黒い感情を抱いていることを友達は知らないようだ。うまく隠せているのかもしれない。私の机の中に琉唯への愛の気持ちを書き連ねている途中の紙切れがあることも、当然友達は知らないだろう。琉唯が私と付き合ってくれるまで、私はずっと愛を叫び続ける。エールを送ったからには、ちゃんと応援してくれないと困るから。どこか楽しそうな表情を浮かべる友達に向かって、私は微笑んで見せた。 授業中でも構わずに、私は文字を書き続けた。頭の中は琉唯のことでいっぱいで、先生の声なんか一つも耳に届いていなかった。琉唯が例の紙をどうしたのかは結局分からないままだけど、公にはしていないことは明らかで。もしかしたら、他人に相談すらもしていないのかもしれない。自分だけで処理をして、誰が書いたのかは突き止めようとしていない様子で。このまま無視を決め込むつもりなのだろうか。それじゃ少しつまらないけど、琉唯だけに私の気持ちが届いているのなら別に構わない気もした。 琉唯とまた偶然2人きりになった時、彼が自分の机の中にあった前回と同じような紙切れを見つけた。言わずもがな、それは私が琉唯への愛を書いて入れたものだった。四つ折りにされたそれをこっそりと広げて溜息を吐くその姿さえも私を興奮させる。もっと参った顔を見せて。琉唯が困惑すればするほど、私は最高に気持ちよくなるから。 そんな風についつい恍惚としてしまう感情を必死に抑えて、私はピュアな女子を演じるように琉唯に近づいた。今からちゃんと私の気持ちを伝えるから。「琉唯」声をかけると、彼は隠すように持っていた紙を机のの中に戻し、平静を装っているような目で私を見てきた。琉唯の瞳に私が映っている。やっぱりそれだけで嬉しくなり、好きが溢れて止まらなくなった。早く私のものにしたい。私は気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸って、琉唯に想いを伝えた。 「私、琉唯のことが好きなの」 琉唯はじっと私を見つめて、それから一言だけ告げた。「その気持ちだけ受け取っとく」琉唯は変わらない表情でそう言い切って、椅子から立ち上がった。そのまま横にかけてあったカバンを手に取り、私の前から立ち去ろうとする。その手を私は咄嗟に掴み、叫ぶように言っていた。「絶対諦めないから」どんな手を使ってでも、私は琉唯を自分のものにする。他の人には絶対に渡さない。 そんな気持ちを込めて琉唯を見ると、彼は何かを感じ取ったみたいに息を呑んだ気がした。そして、防衛本能が働いたみたいに私の手を振り払っていて。「あ、悪い」ハッと我に帰ったような琉唯が、私の手を振り払ったことに対して申し訳なさそうな態度をとった。いい。全然いい。思わず恐怖に怯えてしまったような表情を見られたから。ぎこちなく立ち去る琉唯の背中を見つめながら、私は琉唯に触れた自分の手をペロッと舐めた。もう遠慮なんてしない。 琉唯への愛を綴った紙をまた彼の机の中に入れる。帰宅してからも琉唯のことばかりで、課題なんかそっちのけでルーズリーフに書き殴っていた。寝る時は琉唯と彼氏彼女の関係になっている妄想までしてしまうし、夢にまで琉唯が出てきたこともあった。とても幸せな夢だけど、現実はまだ付き合えていない単なる異性の友達といった関係。夢の中みたいに隣を歩くようなことはなかった。一体いつになったら、琉唯は私の気持ちを受け止めて付き合ってくれるのだろう。受け取ってもらうだけじゃなくて、ちゃんと好きになってもらわないと困るんだ。 私の一方的な想いは強くなるばかりで、未だに琉唯には届いていなかった。ムカつく。なんで私を見てくれないんだ。こんなにも好きなのに。こんなにも愛しているのに。他に誰か好きな人でもいるのか。それとも恋愛に興味がないだけなのか。どちらにせよ、私のことを見てくれない琉唯のことがとてもムカつく。私を見て。私を好きになって。私と付き合って。私は今すぐにでも琉唯に触れたい。薬のせいではあったけど、あの日みたいに我を忘れて私を抱いてほしい。私は琉唯だけのものだから。琉唯になら、何度でも全てを差し出せるから。 琉唯が乱暴に自分の机を蹴ったのは、誰もいなくなった放課後のことだった。私が教室に荷物を置いたまま用を足しに行っている間に起きたことで、私が教室に戻った時には既に琉唯の机は倒れていて。予想外すぎる出来事に、私は扉の前に突っ立ったまま琉唯を見ていた。その視線に気づいた彼は、何の感情も読み取れないような冷たすぎる目を私に向け、そのまま何事もなかったかのように机を戻して私の横を通り過ぎようとした。「琉唯」咄嗟に私は彼の名前を呼び、彼の制服の裾を掴んだ。これはチャンスだ。彼はきっと何かしらのストレスが溜まっている。その原因のほとんどがルーズリーフに愛を書き殴った私の行為によるものなんだろうけど、当然そんなことは言わない。 立ち止まった琉唯は私に顔を向けた。机をたった1回蹴ったくらいでは発散できないほどのストレスが溜まっているのか、その瞳にはまだ満足できていないような不機嫌さがあった。その気持ちを刺激して煽ってしまえばこっちのものだ。そしたら琉唯はまた私だけを見てくれるだろう。そして、満足するまで私を抱いてくれるに違いない。自分のストレスの原因が、今抱いている目の前の女だとも知らずに。私は心の中でほくそ笑み、舌舐めずりをした。 「何があったか知らないけど、私が慰めるよ」遠回しに抱いてもいいよと伝えた私は、背伸びをして琉唯の唇に自分の唇を重ねた。琉唯は微動だにしなかった。そう、少しも拒まなかったんだ。それだけで、理性を失いかけていることが窺える。普段の琉唯なら絶対に拒否していただろうし、机を蹴るような乱暴なこともしないだろうから。 ゆっくりと唇を離した私は、琉唯の背中に手を回して彼の胸に顔を埋めた。大好きな琉唯の匂いがする。たまらない。ずっと嗅いでいたい。やっぱり琉唯の匂いは、私にとって麻薬そのもの。癖になる。しばらく私にされるがままだった琉唯は、縋るように呟いた。「俺のこと、慰めてくれんの?」私は琉唯の胸の中で頷いた。 琉唯と一緒に向かった先は、どちらかの家でもそういうことをするようなホテルでもなかった。一体どこに行くつもりなのだろうと怪訝に思いながらも、琉唯の隣を歩けていることに興奮している気持ちの方が強くて、私はそれを隠すのに必死になってしまっていた。琉唯が私の隣を歩いている。側から見たらカップルだと思われているのだろうか。もしそうならたまらなく嬉しい。もっと近づいて、手でも繋いで周りの奴らに見せつけてやりたい。琉唯というかっこいい人が私の彼氏なんだよって。体だって重ねたことがあるんだよって。 人知れず興奮したまま琉唯の隣を歩き、辿り着いた場所はまさかのバッティングセンター。おかしい。これはちょっとおかしい。これは普遍的なストレス発散方法じゃないか。私の予定にないことが起こり、密かな企みが琉唯に勘付かれてしまったのではないかと思ったけど、別にそういうわけでもないようで。琉唯は脱いだブレザーを躊躇いもなく私に持たせてきたから。 気合い十分のまま、琉唯はバッドをフルスイングする。私は琉唯のブレザーを手にしたまま、側にあったベンチに腰掛けた。予想外すぎる展開だけど、これはこれで全然いい。本当にカップルみたいだ。私は琉唯のブレザーを抱き締めて遠慮もせずに匂いを嗅いだ。バッティングに集中している琉唯は、私の挙動には気づいていない。琉唯のかっこいい姿も見られるし、彼の匂いも思う存分嗅げる。一石二鳥だ。 気持ちのいい音を響かせながらバッドをフルスイングする琉唯を見たり、彼のブレザーの匂いを思いっきり嗅いだりしていると、体の中心部が徐々に落ち着かなくなってきた。琉唯を欲してる。体が琉唯を欲してる。早く、琉唯がほしい。琉唯。私と体を重ね合わせて。最高のエクスタシーを感じさせて、琉唯。その後に、今度は私が攻めて攻めて攻めまくってあげるから。たくさん苦しんで気持ちよくなって。琉唯が苦しんでる姿を見るのは、私にとって快楽そのものだから。私は琉唯のブレザーに軽く舌を這わせたのだった。 正真正銘のストレス発散をした琉唯は、そのまま私を家まで送ってくれた。私がたくさん匂って少しだけ舐めたブレザーを腕にかけて。それについつい興奮してしまうけど、まだまだ全然琉唯が足りない。琉唯は満足したのかもしれないけど、私は少しも満足していなかった。「今日は付き合ってくれてありがとう」じゃあな。私の前から立ち去ろうとする琉唯を、私は咄嗟に引き止めた。「まだ嫌」私が思う慰めをするまで、絶対に帰らせてやらないから。 私は琉唯を見つめる。今すぐその形のいい唇に何度もキスをして首筋に顔を埋めたい。琉唯がほしい。琉唯に触れたい。私は琉唯をとことん愛するから、琉唯も私をとことん愛して。恍惚とした感情を抱いてしまった私は、自然と琉唯の頬に手を伸ばして顔を近づけた。そのまま唇が触れ合いそうになった時、琉唯が私の肩を押してふいと顔を背けた。拒否られてしまった。教室では簡単にできたのに。拒否なんて少しもしなかったのに。あぁ、とてもムカつく。なんで早く私のものになってくれないんだ。 琉唯は顔を背けるだけで、何も言ってはくれなかった。もうこうなったら意地でも琉唯の気を引き止めて、無理やりにでも家に連れ込んでやる。私はブレザーを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを上から順に外していった。「瀬戸、何して」驚きの声を上げる琉唯を無視して、私はボタンを外し続けていた。ここは外だ。人がいないわけじゃない。通りすがりの人がこの光景を目にしたら、間違いなく不審に思うだろう。猜疑の目を向けられてしまうのはきっと琉唯だ。この場では私が自ら服を脱いでいると分かっているけど、何も知らない人からしたら、男に脱ぐよう指示をされているとも取れるだろうから。泣きそうな顔でもしていれば、大抵の人は目の前の男が悪いと思うはずだ。 どうする、琉唯。私は琉唯の気を引くためなら全てを脱ぎ捨てたって構わない。変な目で見られようがネットに晒されようがどうでもいい。琉唯が私の相手をしてくれるならそれで満足だから。全てのボタンを外し、また琉唯に抱きつこうとした。だけど寸前で琉唯が腕にかけていたブレザーで私の胸元を隠し、玄関の扉に押さえつけてきた。「瀬戸は俺に、何を求めてんだよ」分かってるくせに、真面目な顔してそんなこと聞くなんて。胸の前にある琉唯のブレザーから彼の匂いが漂ってくる。最高のサービスを提供してくれる琉唯に、私は蕩けてしまいそうになった。琉唯は平然を装っているようだけど、本当はどうしたらいいのか分からないみたいに少しだけ動揺しているのを、交わらない視線で察した。動揺している姿もたまらなく愛おしい。いっそのこと、理性を失ってしまえばいいのに。それで私を抱いてしまえば楽になるのに。 「私を抱いてよ、琉唯」琉唯がほしくてたまらない。私の体は琉唯だけのものだから。琉唯の体も私だけのものだから。他の女になんて絶対に触らせない。キスしていいのも首筋や鎖骨に跡をつけていいのも私だけ。琉唯は全部、私のもの。私のこの愛情が琉唯にも伝わって感染するまで、私はずっと愛を届け続ける。何度でも愛してると伝えるから。 私は誘うような眼差しを琉唯に向けた。それに琉唯は戸惑うように視線を逸らし、ゆっくりと私から離れた。どうして目を背けるのだろう。どうして私から離れるのだろう。そのまま抱き締めて噛みつくような乱暴なキスでもしたらいいのに。私に対して遠慮なんて、我慢なんて、そんなのしなくていい。本当は琉唯だってやりたいんじゃないのか。全力で誘ってるのに、抱いてもいい、抱かれたいって思ってるのに、どうして琉唯はそれを分かってくれないんだ。ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。ふざけるのもいい加減にして。琉唯は大人しく私を抱いていればいい。抱け。それとも私が襲えばいいのか。琉唯はそういうプレイが好きなのか。だったらお望み通りにしてやるから。 私から距離を置こうとする琉唯の胸倉を掴み、私は無理やり唇を重ねた。琉唯と一緒にエクスタシーを迎えるまで、私は絶対に彼を離さない。意地でも家の中に連れ込んでベッドに押し倒してやる。それをした暁には、力が尽き果てるまで何度でも苦しめて傷つけてたくさん愛して、一生忘れられないような夜を作り上げてみせるから。私のことしか考えられないような最高の夜を。 私の密かな賭けに負けたのは琉唯だった。その気になれば私を突き飛ばして逃走することだってできたのに、琉唯はそれをしなかった。きっと素直になれなかったんだ。私を抱きたい気持ちはあっても、まだ付き合っていない関係だから。ただのセックスフレンドは嫌だけど、そこから始まる恋もいい気がしている。私と琉唯の体の相性は抜群だ。それに関しては、これから付き合う上で何の問題もない。だけど、琉唯の気持ちが私になかなか傾いてくれないこと。それが一番の問題だった。琉唯には私の気持ちを全て受け入れてもらわないと困るんだ。それが無理だというなら、私が琉唯を監禁して調教してやるから。精神的肉体的苦痛を与え続け、私に従順になる琉唯の姿を想像したらゾクゾクしてしまい、体を重ね合わせる前から享楽に耽ってしまった。 妄想を繰り広げながら、さっきから感情のない人形みたいに黙りこくっている琉唯の手を引いて自室へと足を踏み入れた。琉唯が私の家にいて、私の部屋にいる。その事実に気分が最高潮に達した私は、恥辱を感じることなくブラウスを脱ぎ捨て、無表情な琉唯に襲いかかった。琉唯は私の体重を支えることなく簡単にベッドに押し倒され、やっぱり何の感情も読み取れないような表情で私を見てきた。全ての感情を押し殺しているような目。それで私の熱が冷めるとでも思っているのだろうか。そんなこと絶対にありえないから。私の琉唯への熱は絶対に冷めない。冷める未来すら想像できない。 私は琉唯の唇にキスをした。少しも抵抗しない琉唯は専ら私にされるがままで、私に触れてこようともしなかった。じっと何かに耐えているようなその姿が、更に私の興奮を増幅させる。首筋に舌を這わせたり制服のボタンを外したりする時に、琉唯は自分の口元を右手の甲で隠して顔を逸らしていた。空いた左手は私が布団に押さえつけたり舐めたりして大いに弄んでやった。面白いくらい抵抗しないのは、吹っ切れて私の上に乗ろうとしないのは、何かを諦めているからだろうか。自分では私に勝てないとでも思っているからだろうか。本気を出せば女の私なんて簡単に押さえつけられるだろうに。無反応なのはつまらないけど、完全に主導権を握っていることに関しては優越感を覚えた。私がずっと愛してあげる。 口元を隠す琉唯の手を剥ぎ取り、私はもう一度唇を重ねた。角度を変えながらのキスを繰り返す。酸素を求めてお互いの唇が開きかけた時、私は容赦なく舌を入れた。熱い息が交わる度に、体の中心部が更に落ち着かなくなった。軽く片膝を立てた琉唯の足が、私の熱くなった部分に振動を与える。その刹那、私は濃いキスをしながら小さく声を漏らしてしまっていた。その喘ぐような声に感化されてか、ようやく琉唯の理性が危うくなり、彼は必死にそれに抗うように、我慢できない本能に苦しむように、緩慢な動作で私の腰に手を回してきた。その手がほんの少しだけ震えていた。 琉唯の細い糸で繋がれたような脆い理性なんて、私が簡単に引きちぎってやる。我を失ってしまえ。恍惚とした感情を抱いてしまえ。それで凶暴な琉唯に豹変したとしても、私はその姿さえも全力で愛するから。私の言うことを全く聞かないのなら、ちゃんと調教して私に逆らえないようにするから安心して。絶対服従させるから。それから、これは叶うまで何度でも言う。早く私のものになれ。私の全てを受け入れろ。私を愛せ。琉唯。私は琉唯と体を重ね合わせながら、頭が真っ白になるほどの最高の享楽を感じたのだった。 行為をしている時は、琉唯を独占できていることに興奮すると共に満足感さえ覚えていた。だけどそれはその場限りの気持ちでしかない。学校で琉唯と話すことがあまりない私は、彼とよく話している人に対してイライラしていた。嫉妬していた。私の琉唯に話しかけんな。そう言って彼の視界を遮ってやりたいと思うくらい。私と2人きりの時以外は、私が琉唯の目になりたいと本気で思った。琉唯に目隠しをして、それを外させないように両手を拘束して。学校でも私がいないと、私とずっと一緒にいないと、自分1人では何もできなくなるまで追い詰めてやりたい。そのうち、琉唯自らが私を頼ってきてくれたら尚良い。琉唯の目が見えなくなっても、琉唯の耳が聞こえなくなっても、私はずっと琉唯の側にいる。死んでも絶対に離れない。離さない。何回でも体を重ね合わせて、何回でも愛してると伝えるから。クラスメートと会話を交わしている琉唯を見ながら、私はこっそりと舌舐めずりをした。 他クラスにボディタッチの多い派手な女がいた。明らかに琉唯に好意を抱いているその女は、琉唯と話すためだけにこのクラスに訪れ、琉唯に遠慮もなくベタベタと触れるのだ。それに対して琉唯も少しばかり嫌悪感を抱いているようで。何此奴、みたいな表情をしている。多分私以外の人は琉唯の本音に気づいていないだろうし、琉唯に汚い手で触れまくっている女すらも、想い人に嫌悪感を抱かれていることに気づいていないだろう。私だけが琉唯の気持ちを知っているから、私が琉唯を助けないといけない。 自分勝手な使命感を抱いた私は、琉唯に触れている女に近づき、その手を乱暴に剥ぎ取った。そして、驚愕の表情を浮かべる女の頬を、私は思いっきり平手打ちした。乾いた音が響き、教室にいた全員が私と女の方に視線を向けたのが分かった。辺りに沈黙が漂う。女は叩かれた頬を押さえて私を睨み、叫ぶようにして声を上げた。「ふざけないで、何してくれんのよ」キーキー喚く女の言葉を聞いて、私は其奴を睨み返した。「私の琉唯にベタベタ触れてるの見てたら胸糞悪かったから」その瞬間、教室内が騒然とし始めた。何かまずいことでも言っただろうかと思ったけど、今はそんなことなどどうでもいい。目の前のゴミを片付けることが最優先だ。 女は私の挑発に唇を噛み締め、それから怒りをぶつけるようにしてまた叫んだ。「琉唯は誰のものでもないから」況してやあんたのものなんて絶対にありえない。そのまま女は私の肩に故意にぶつかり、教室の扉を乱暴に開閉して姿を消した。女のその言動に周りがしんと静まり返ったのはたった一瞬で、再び教室内は騒然とし始めた。なぜか視線が突き刺さる。怪訝に思って辺りを見回すと、たまたま目が合った女子が遠慮がちに声を上げた。「私の琉唯って言ってたけど、2人って付き合ってるの?」あぁ、なんだ、そういうことか。私の琉唯、なんて言ってしまったから語弊を生んでしまったのか。本当のことだったら開き直って堂々と立ち振る舞うこともできたけど、私たちはまだ付き合えていない。まだ。私の妄想の中で付き合っているだけで、現実はただの異性の友達でありセックスフレンドなだけだった。敢えて言うなら、私の片想いの相手。愛している人。 私と琉唯に好奇の眼差しを向けるクラスメートに、私はにっこりと微笑んで見せた。「付き合ってないよ」まだね。私がそう言うや否や、空気が少しだけ凍りついたような気がした。チラッと琉唯を一瞥すると、彼は何か言いたげな表情で私を見ていた。何を言いたいのかまでは分からないけど、自分のことを見てくれていることが嬉しくてたまらなくなった私は、また気分が高揚してしまった。体が熱くて、胸がドキドキする。その瞳を、その視線を、私が独占したい。ずっと私だけを見てほしいし、他の奴らなんか視界にも入れないでほしい。いっそのこと、琉唯と私の2人だけの世界になってしまえばいいのに。 そこまで考えて、私はハッと閃いた。そうか。2人だけの世界にしてしまえばいいんだ。学校では嫌でも他の奴らが私と琉唯の間に割り込んでしまうから、琉唯の視線を私に留めることができない。琉唯が私を見てくれない。目移りしている。それを防ぐために、彼を本当に自分の所有物にしてしまえばいい。私に従順になるまで本気で調教して、まるで犬のように言うことを聞かせる。そしたら琉唯は私だけを見てくれるようになるはずだし、私の言葉も素直に受け入れてくれるようになるはずだ。愛してると言えば、愛してると返してくれる。セックスしたいと言えば、私に体を預けてくれる。もしかしたら、琉唯自らが誘うような熱い瞳で私を見て、体を求めてくることだってあるかもしれない。 そんな風に私に絶対服従する琉唯の姿を早く見たいと思った私は、毎日の日課のように放課後に琉唯を呼び出して調教してやろうと思った。下準備が整ったら、私の家の地下にでも監禁してたくさん愛してあげる。そして、身も心も全て私だけのものにする。私がいないと生きていけない体にしてあげるから。覚悟しておいて、琉唯。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加