自分の過去を知りましょう。

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私は君を調教します。 *** 空き教室に琉唯を呼び出すようになった私は、彼の意思に関係なく無理やりキスをするようになった。琉唯が拒否してもそんなの知らない。そのうち怒鳴られようが、暴力を振るわれようが別にどうでもいい。女は狡猾な生き物だから、男に暴力を振るわれたと涙ながらに話せば大抵の奴は騙されてくれる。それで軽蔑の目を向けられるのは琉唯だ。誰からも慕われている琉唯の悪い噂が流れてしまったら、彼の立場が危うくなってしまうだろう。学校に居づらくなってしまうことだってあるかもしれない。そうなった場合は私がとことん慰めて愛してあげるから安心して。故意に悪い噂を流した責任を取ってあげるから。 今日もまた、私は琉唯にキスをした。ちゃんと真面目に言われた場所に来てくれるのは、私とのキスを楽しみにしてくれているからだろうか。だったらとてつもなく嬉しい。私は琉唯にしがみつくようにして唇を重ね、舌を絡める濃いキスを繰り返し行った。琉唯をその気にさせるように日々猛進している状態だ。だけど琉唯は私にキスをされるがままで、抵抗もしなければ文句を言うこともなくて。専ら何かを我慢するように必死に耐えているだけなのだ。そんなに気を張らなくてもいいのに。琉唯は私の愛情を全て受け止めてくれたらそれでいい。簡単なことじゃないか。私に身を預ければ楽になれる。どうしてそれを分かってくれないんだ。 理解してくれない、受け入れてもらえない。それにムカついて、イライラして、私は更に琉唯を強く抱き締めた。琉唯は舌を動かしてくれない。私の舌だけが、琉唯の口の中で蠢いている。漏れそうになる声すらも琉唯は息を止めて我慢している様子で。それにも苛立ちが募ってしまった私は、誘うように琉唯の服の中にゆっくりと手を入れた。琉唯の体温が直に伝わる。琉唯の全てを舐め回して私の唾液で汚してやりたい。私のものだという印をたくさんつけてやりたい。 私の息が漏れる。それから、もう我慢できなくなったのか、琉唯の息も漏れ始めた。絡み合う熱い息が私の興奮を煽り、私は空いた片手で自分の熱くなった部分に触れた。今日はいつもより甘い。ようやく琉唯の手が抵抗するように私の肩に触れ、そのまま押しのけられた。足の力が抜けた私は床に座り込んでしまったけど、自分に触れたままの手は止まらなかった。琉唯の目の前であることにも体は反応していて、もう何が何だか分からないまま、私の頭は真っ白になっていた。 「さっさと飽きろよ」もう俺、お前の相手なんてできない。疲労を隠しきれていないような虚ろな表情が、疲れたように少しだけ息を切らしたその声が、たまらなく愛しかった。最高に好きだと思った。私の行為が、琉唯の疲労に匹敵している。この調子で調教をエスカレートさせていったら、こんな風に私を拒否ることなんてなくなるだろう。私は脱力気味のまま、琉唯を見上げて緩く口角を上げた。「飽きないよ」私は琉唯を心の底から愛しているから。だから、私から離れようとするのは絶対に許さない。琉唯が私の所有物になる日は、きっとあと少しだ。 その日を境に、琉唯は空き教室に姿を現さなくなった。なんで。どうして。意味が分からない。ふざけないで。琉唯なら私の気持ちを受け入れてくれると思ったのに。それなのに、私から離れようとするなんて。絶対に許さないから。絶対に私のものにしてやるから。私から離れようとした罪は重い。徹底的に調教して、私に逆らえないように洗脳してやる。私は琉唯の飼い主になるから。言うことを聞かない悪い子にお仕置きができる立場なんだ、私は。もう甘やかしたり、優しく接したりしない。私に従順になるまで厳しく育ててやる。私に逆らうのは許さない。飴と鞭で全力で愛するから、その全てを受け入れられるようになるまで離さない。絶対に。 人知れず束縛が酷くなってしまった私は、6限終了後すぐに琉唯の席に行き、彼の頬を平手打ちした。突然殴られた琉唯だけでなく、教室にいた全員が私の挙動に驚愕の表情を浮かべた様子だったけど、そんなことなど全然気にならなかった。私は今目の前にいる、殴られた頬を押さえて驚愕の眼差しで私を見つめる琉唯に用があるんだ。騒然とし始める教室内の空気なんか無視して、私は口角を吊り上げた。「今日は来てくれるよね?」私のその問いに顔を背けた琉唯の頬を、私はまた引っ叩いた。乾いた音が響く。冗談では済まされないようなただならぬ空気感に、小さく悲鳴を上げる女子や私を宥めようとする男子がいたけど、そんな奴らに構ってる暇なんてなかった。琉唯がはいと言うまで、私はとことん彼を追い詰めるつもりだ。早く私に従順になってしまえ。 琉唯は私を見上げ、それから周りにいるクラスメートに視線を向けた。その行動すら私を不愉快にさせる。私は琉唯の頬に手を添えて自分の方を向かせた。会話をしている相手は私だ。それ以外の人を視界に入れようとするな。「琉唯にははい以外の選択肢はないから」琉唯にだけ聞こえるようにそう言うと、彼は私から視線だけを逸らして小さく頷いた。「は、い」怒られたり殴り返されたりするかもしれないと密かに思っていたけど、琉唯は控えめに悔しそうな表情を浮かべているだけだった。好きな人を自分の思い通りに従わせることがこんなにも快楽だったなんて。おまけに琉唯の、痛みにほんの少し顔を歪めた姿や、悔しそうな表情も見られた。これは癖になってしまいそう。 約束通り私に遅れて空き教室にやってきた琉唯は、何か言いたげな表情で私を見てきた。首を傾げてそれを尋ねてみると、彼はゆっくりと口を開いて。「俺に執着するのはもうやめろよ」お前、頭おかしくなってる。懇願するようにそう告げた琉唯に、一歩二歩と近づいた私は、彼の真正面に立ってその手を取った。そのまま自分の頬に押し当てて、琉唯の手の甲を撫でるようにして触れる。「全部、琉唯のことが好きだからだよ」私の頭は全然おかしくない。私の気持ちを受け入れてくれない琉唯の方がおかしいに決まってるじゃないか。私は誰よりも琉唯のことを愛しているのに。 琉唯は私から逃れるようにして手を振り払い、怖いものでも見るかのような目を向けてきた。怯えているようなその眼差しが、私を堪らなく興奮させる。クールなふりして、実は表情が豊かな琉唯は、私だけにいろいろな表情を見せてくれている。苦痛や悔恨、そして恐怖。そういうマイナスな面ばかりだけど、それがとてつもなく嬉しかった。笑顔は別に見なくていい。私が見たいのはその逆なのだから。私の手によって琉唯が苦しんだり、恐怖に怯えたりするのが最高の快楽なんだ。もっと独占したくなる。このまま家に連れて帰って監禁してしまいたい。でもまだ、琉唯には抵抗する力が残っている。私に従順ではない。だから、素直に指示に従うことが多くなってから連れ去るつもりだった。それまでは耐久戦。ゆっくりと、じわじわと、心を蝕んでやる。 今にも私の前から逃走してしまいそうな琉唯に、私は勢いよく抱きついて胸に顔を埋めた。簡単に離されないように琉唯の背中に手を回し、力いっぱい抱き締める。そして遠慮なく琉唯の服の匂いを嗅ぎ、琉唯の心音を全身で感じた。心臓の鼓動が速いのは、私に恐怖心を覚えているからだろうか。それとも、本当は私にドキドキしているからだろうか。無論、どちらでも私はとても嬉しい。私の言動が琉唯の鼓動を速くさせていることに変わりはないから。 「どんな琉唯も大好きだよ。何かに苦しんでたり怯えてたりしてる琉唯なんか特に」 胸に顔を埋めたままではあるけど、琉唯の耳にはしっかりと届いたらしく、彼はどうすればいいのか分からないみたいに息を吐き出して呟いた。「なんだよそれ」そういうとこが頭おかしいっていうんだろ。さっさと分かれよ。気づけよ。私の目を覚まさせようとしているような琉唯のその言葉が、私には理解できなかった。私の目はちゃんと覚めている。頭も正常だ。それなのに、琉唯は私のことをおかしいと言う。それが既におかしい。 「おかしいのは琉唯だよ」私の気持ちを分かってくれない琉唯の方が断然おかしい。いいよ、付き合おう。そう言えば済む話なのに、琉唯は一向に口を割らない。好きとも言ってくれない。私の想いだけが琉唯にぶつかっているだけだった。いや、ぶつかっているというより、避けられていると言った方が正しいだろうか。琉唯はどうにかして自分から私の気を逸らさせようとしているみたいだけど、そんなことしたって無駄。私は琉唯を諦めない。調教がうまくいけば、琉唯が私に異議を申し立てることもなくなるだろう。全ては私の調教次第。 琉唯を更に強く抱き締める。絶対に離さない。離してやらない。琉唯を私の所有物にするまでは。愛してるの気持ちを込めて抱き締める私に、琉唯は苦しそうに、辛そうに、はたまた静かな怒りを込めたように告げた。「俺はおかしくない」お前なんだよ、おかしいのは。どうしてそんなことを言うのか分からない。それに、私はお前なんて名前じゃない。私を呼ぶなら夢乃って呼んで。ずっとお前か瀬戸だから、まずはそれを強要してやる。下の名前で呼ぶ練習でもしようか。まずはそこから。 私は琉唯から離れ、躊躇なく彼の頬を叩いた。これは愛の鞭だから。叩いた私だって手のひらが痛いし、琉唯だってきっとそれは同じ。時には痛みを分け合うことも大切になってくるから、その練習だとでも思えばどうってことない。もっと苦しませて、私に逆らえないようにしてやるから。琉唯を私の下僕にしてやる。私から逃げられると思うな。琉唯は一生私に愛される運命なのだから。私は琉唯に極上の愛を届け続ける。 頬を押さえる琉唯に向かって、私はにっこりと微笑んで見せた。「私のこと、夢乃って呼んでよ」普通に呼んでくれるまで、今日は何が何でも帰さないから。それは好きと言うよりも簡単なことだろうから、すぐにノルマクリアできるはずだ。なんでもまずは簡単なことから始めないと、初っ端からレベルの高いことをしたらやる気力が失せるし詰む。だから、ゆっくりでいい。少しずつ琉唯を屈服させたらそれでいい。急がば回れだ。 「ねぇ、呼んで」夢乃って。黙ったまま私を見つめている琉唯を見つめ返し、私はひたすら彼の言葉を待っていた。だけど琉唯は一向に口を開かず、ふいと顔を背けるだけだった。何その反応。ムカつく。もっと痛めつけてやらないと、琉唯は私の言うことを聞く気にならないのか。それなら、徹底的に苦しめて無理やり吐かせるだけだ。どんな手を使ってでも、私は琉唯を絶対服従させる。琉唯は私の愛情を全身で受け入れて、私の言葉に素直に従っていればそれでいいんだ。私の虜になってしまえ。私がいないと駄目な体になってしまえ。私がずっと世話して飼い慣らして、とことん愛してあげるから。 私はまた琉唯の頬を打った。私に何度も殴られる琉唯だけど、決してやり返してくることはなくて。女の力でも殴られたら痛いのか、専ら苦痛に顔を歪めているだけだった。それが堪らない。琉唯を支配しているような征服感を覚えた私は、体の内側から享楽や高揚を感じた。これだ。私が味わいたいのはこれなんだ。琉唯を痛めつけて味わう快楽が堪らない。私は口角を吊り上げて舌舐めずりをした。「夢乃って呼ぶまで殴るよ?」逃げたって無駄。地の果てまで追いかけ回して、必ずや私のものにしてやるから。 殴ると脅迫しても、琉唯は微動だにしなかった。依然として口を固く閉ざしているだけ。そんなに呼ぶのが嫌なのか。それとも誰かを下の名前で呼ぶことに抵抗でもあるのか。だけど今はそんなこと関係ない。琉唯の私情なんて知らない。どうでもいい。だから、早く私の名前を呼べ。違和感なく呼べるようになるまで、私はそれを強要する。瀬戸やお前など、下の名前以外のそれで私のことを呼んだ場合、その回数分だけ殴ってやる。そして、ちゃんと呼べた場合は、抱き締めたりキスしたりしてたくさん褒めてあげる。調教に飴と鞭は必須だから。 全然呼ばないから、呼ぼうとしてくれないから、私は琉唯を殴る。何度でも。この場から逃げようとしても、そうはさせない。今日のノルマを達成するまで帰るのは禁止。苦痛や屈辱をこれ以上味わいたくないのであれば、その固く閉ざした唇をさっさと開いてしまえ。それとも、琉唯が頑なに口を開かないのは、私に殴られたいからだろうか。そういう性的嗜好を、琉唯は持っているとでもいうのか。もしそうなら、本当に相性抜群じゃないか。出会うべくして出会った、運命の相手そのもの。とてもロマンチックだ。 私は興奮を押さえられないまま、再び右手を大きく振りかぶった。その時、ずっと口を閉ざしていた琉唯が、掠れたような声を吐き出した。「言動が支離滅裂なんだよ」夢乃は。疲弊しきったような小さな声だったけど、確かに私の名前を呼んだ琉唯は、まるでどこか体調が悪いんじゃないかと疑ってしまいそうになるほど、ぼんやりとした目つきで私を見つめていた。全てを諦めたような目。大袈裟に言えば、生気を感じられないようなそれ。琉唯はそんな表情もできるのか。新発見だ。もちろんその表情も好き。私の言葉を素直に受け入れるしかないみたいな諦観したその表情が、私の心を大いに刺激する。もっと私に従順になって。 琉唯は少しもやり返してこないし、そういう素振りもないから、とことん痛みを覚えさせることができた。だけどそれだけでは駄目だ。鞭を与えたなら、今度は飴を与えなければ。私の名前を呼ぶという第一関門をクリアしたから。まだ少し言わされている感が否めないけど、それはじっくりと慣れさせていけばいい。今は琉唯にご褒美をあげることが大事だ。「名前呼んでくれてありがとう」とっても嬉しいよ。私は無抵抗な琉唯に触れるだけのキスをした。琉唯はもう全てを諦めているみたいだった。 ほぼ毎日欠かさずに、私は琉唯に対する愛を綴った手紙を送りつけていた。こっそりと制服の匂いを嗅ぐのと同じように、それも密かな日課になっていたのだ。琉唯はクラスメートの前では平然とした様子を装っているけど、誰もいなくなった教室では豹変したように私が送りつけた愛のこもった手紙を力任せに引き裂いていた。その様子をたまたま目撃した私は、タイミングを見計らって教室に入り、私の愛を引き裂いた琉唯を力任せに殴った。私が送りつけていたことを既に知っていたのかどうかは分からないけど、琉唯はただ苦しそうに私を見つめるだけだった。もうやめてくれ。そう訴えているような眼差しだった。それでも私はやめなかった。 その日々の積み重ねのおかげか、私が空き教室に呼び出して下の名前で呼ぶよう強要したその日には、きっと琉唯の精神は崩壊寸前まで追い詰められていたのだろう。それでも、一縷の望みをかけるかの如く私を正気に戻させようとしたけど、意味がないと悟ったのか全てを諦めた。それでもう完璧に私に服従するかと思ったけど、どうやら琉唯にはまだ少しの理性が残っているらしい。好きと言えと命令しても、すぐには言わなかったから。殴って殴って痛めつけてようやく口を割ってくれたのだ。それもやっぱり、言わされている感が否めない言葉だった。理性が邪魔をしている。それを壊さなければ、私の言葉を素直に聞いてくれない。だけど、殴られて苦しんでいる琉唯も見たい。理性を失えば、それを見られなくなる恐れがある。理性を失わせることと、苦痛に顔を歪める姿を見ること。両者を天秤にかけて悩んだ末、後者を取ることにした。少しの理性を残したまま痛めつけた方が私にとって快感になるし、何度も暴力を振るえば琉唯は従ってくれる。こっちの方が断然いい気がした。一石二鳥だ。 私は琉唯の調教を続けた。好き。大好き。愛してる。それらを3日かけて順に言わせ、私の言葉に無理やり従わせた。琉唯は絶対にやり返さない。ずっと黙りこくって苦痛に顔を歪めるだけ。それに耐えかねた時に、私が言うように指示した言葉を吐く。琉唯は私と会話というものをしなくなった。指示待ち人間。指示されたことしか言わない。やらない。私の前では必死に我慢するだけなんだ。でもそれは、私にとって都合がいい。最高だった。もっと苦しませてやる。琉唯が私に付き従う日は、私を見て恐怖に煽られる日は、そう遠くない。もう少しで、琉唯は完全に私のものになる。いや、私のものにしてやる。監禁の準備は既に整っているから。あとはタイミングを見計らうだけだった。 琉唯は誰にも頼らない人で、私の前以外では本当に平然としていた。もちろん無理して取り繕っていることくらい知ってる。どこか上の空になっている時があるし、私と目が合うと怯えたように顔を背けるから。琉唯が誰にも相談しないのは、誰かを頼ることで、その誰かに被害が及ぶかもしれないと恐れているからかもしれない。もしそうなら、琉唯は私のことを本当によく分かってる。私と琉唯の愛の主従関係をぶっ壊そうとする人がいるのなら、私は其奴の息の根を止めるつもりだった。琉唯との関係を維持するためなら、人殺しだって厭わない。きっと躊躇なく殺せる。だって其奴は、私と琉唯の愛の住処に邪魔な存在そのものだから。殺さないといけない存在。家の中に這い出てくるムカデやゴキブリと同じ。叩きのめして退治してやる。 愛のこもったメッセージを日課のように送りつけ、適度に琉唯の匂いを嗅ぐ。そして、放課後には空き教室で琉唯を調教する。それが私の毎日だった。授業なんかどうでもいい。琉唯に会って琉唯に愛を送りつけて琉唯の匂いを嗅いで琉唯を空き教室で調教する。そのためだけに学校に来ているようなものだった。琉唯も休まずに来てくれるから嬉しい。だけど今日は、琉唯にとって最後の登校の日になるかもしれない。私はこの日に琉唯を自宅に連れ込んで、そのまま自分だけのものにするつもりだった。絶対に逃がさない。私が一生をかけて愛してあげる。 迎えた放課後。琉唯を連れて空き教室に入った私は、早速彼に指示を出した。「今日は、琉唯から私にキスしてよ」舌使う激しいやつね。振り返りながらそう言って少しだけ舌を出してみせた私に、琉唯は様々な感情がごちゃ混ぜになったような複雑な表情で私を見つめた。疲労、恐怖、戦慄、畏怖、驚愕、悔恨、嫌悪、拒絶。それらの負の感情に苛まれているような琉唯は、やっぱり私の指示に素直には従わなかった。だったら従ってくれるまで暴力を振るうだけ。暴力は簡単に人を支配できる。 抵抗しない琉唯を殴って、痛みを我慢する琉唯を殴って、私は強制的に従わせようとした。早く従え。私に舌を使ったキスをしろ。ストレスを発散させるみたいな乱暴なキスでも私は全部受け入れてやるから。思わずニヤニヤしてしまう顔を押さえられないまま、私は狂ったように琉唯を殴り続けていた。いつもだったら手が疲れ始めた頃に素直になるけど、今日は随分としぶとかった。そんなに私にキスをするのが嫌なのか。私は心の中で舌打ちをして、殴っていた手を止めた。琉唯がここぞとばかりに頬を押さえて顔を背ける。彼は何も言葉を発しなかった。私はそれに対してもイライラしてしまい、顔を背けたことで露わになった琉唯の首筋に顔を近づけて舌を這わせた。そして、苛立ちをぶつけるようにして思いっきり噛んだ。柔らかい肉を引き千切るような勢いで。琉唯はいつもとは違う箇所の痛みに驚いたのか、喘ぐような声を漏らして私を大いに振起させた。いい反応。私は自分の歯型がついた箇所を舐めまくり、琉唯の行動を煽った。今思いついた、殴る以外の方法。 琉唯は震えたような手で私の肩に触れて押し退けると、諦観したような無気力な表情で口を開いた。「やる、から」今日も勝った。琉唯は面白いくらいやり返してこないから、私が攻める手をやめない限りいつかは従ってくれる。そのいつかになるまで、私はずっと琉唯を追い詰め続けるだけでいいんだ。私は口角を吊り上げて、自分の唇をペロッと舐めた。 何かに憑依されたかのように感情の読み取れない瞳で私を見つめた琉唯は、ゆっくりと私に顔を近づけてきた。心臓が常に興奮しているみたいにドクドクと鳴っている。全身が琉唯を欲してるみたいに熱かった。触れた箇所から順に蕩けてしまいそう。琉唯が欲しすぎてか、唾液まで溢れてくる始末。それを飲んでしばらくしてから、琉唯の息遣いと私の息遣いが絡み合い、熱いキスを交わしていた。私は唇を軽く開き、琉唯の舌を今か今かと待ち構えた。そして、琉唯は覚悟を決めたように緩慢な動作で舌を入れ、私を掻き乱した。琉唯の舌が私の口内で蠢いている。それがたまらなく嬉しくて、私は琉唯の首に腕を回すなり彼の後頭部を押さえた。それによって更に深くなったキスに、私も琉唯と同じように舌を絡ませ、わけが分からなくなるまでそれを続けた。琉唯が限界だとでも言うように舌を引っ込め私から離れようとするのも阻止して、今度は私が琉唯を攻め立てる。ご褒美だ。私の言うことを聞いてくれたご褒美。 お互いの荒くなった呼吸が熱く絡み合い、立っているのも辛くなってきてしまった。どちらからともなく膝の力が抜け、引きずられるようにして床に座り込む。琉唯を押し倒さんばかりの勢いでディープなキスを続ける私に、琉唯は私の体重を支えるかのように床に両手をついていた。琉唯から離れたくなくて、離したくなくて、私は夢か現実か分からないような不思議な感覚を味わいながら噛みつくようなキスを続けていた。今日はこのまま家に持ち帰って監禁するつもりだから、今まで以上に追い詰めて、逃げられないようにしっかりと手懐けておかなければならなかった。監禁でき次第、今後は安心して調教できる。それまで気を抜くのは厳禁だ。 死にそうになるくらい舌を絡ませ、ゆっくりと琉唯から離れると、口の端から混ざり合った唾液が垂れてきそうになった。それを舐め取りごくりと飲んだ私は、総仕上げをするように、息を切らして虚ろな表情で私を見つめる琉唯の唇を軽く舐めた。過去最高に熱いキス。それをしたことに対して体中の熱がおさまらない。ずっと興奮状態のままで、気分がとても高揚している。私は琉唯の心音を聞くように彼の胸に顔を埋め、囁くように呟いた。「愛してるよ」永遠に。鉄格子のように頑丈な檻の中に閉じ込めたいくらいに。だから。「一生離さない」琉唯はもう私のもの。
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