自分の過去を知りましょう。

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君は一生私のものです。 *** 無抵抗な琉唯を自宅に連れ込み、地下室へと向かった。この日のために部屋を綺麗に掃除して、それなりに玩具も用意した。自分がする調教に必要だと思う玩具を。白い部屋の隅にそれらをまとめて置いているため、琉唯の目にもしっかりと映っていることだろう。私は琉唯を無理やり部屋の中に押し入れ、玩具と同じ箇所にあらかじめ用意していたペットボトルの水を手に取った。温くなっているけどきっと問題はない。蓋を開けながら琉唯に視線を向けると、彼は自分の置かれている状況をまだよく理解していないのか、正気のないような瞳で視線を泳がせていた。私の数ある挙動が積み重なって、精神的にも肉体的にも追い詰められているのかもしれない。でもまだまだこれからだから。もっともっと痛めつけて、私の愛を全部受け入れてくれるような最高の体に改造するつもりだ。私のことしか愛せないようにしてやる。 私は琉唯の名前を呼んで振り向かせ、笑顔でペットボトルを差し出した。「飲んで」琉唯はぼんやりと私を見つめるだけで、ペットボトルを受け取ろうとはしなかった。まだ私に従順ではないようだ。だったらやることは同じ。飲むと言うまで追い詰めればいいし、無理やり飲ます方法だってある。ここは私のオリジナルの監獄だから、主導権を握っているのも琉唯の上に立っている強者も私。飼い主は私で飼い犬は琉唯。下僕は大人しく私の指示に素直に従っていればいい。無駄な足掻きは私の機嫌を損ねるだけ。だから。「飲んでよ」私の手が出る前に、これを受け取って口に含むことをしろ。生き地獄を味わいたくなければ。 今は飴と鞭の鞭だ。ペットボトルの水を全て飲んでくれたら優しく抱き締めてあげるし、学校で散々したキスだって何度でもする。琉唯はただ飲めばいいだけ。それを拒否する理由なんてどこにもないじゃないか。それなのに、どうして琉唯は私を見つめるだけなんだ。何の感情も読み取れないような虚ろな瞳で見られたら、私の手が出ないはずがなかった。もっと私に服従しろ。怯えろ。苦しめ。好きな人の指示には絶対服従しないといけない。私をそういう目で見て全力で愛せ。 琉唯を殴って殴って殴って。それから次第に表情が崩れて苦しみ出した琉唯を見て興奮し、私は自然と口角が吊り上がってしまった。暴力で琉唯を屈服させた私は、飲むと宣言した琉唯に再びペットボトルの水を差し出した。震えたような手で私からそれを受け取った琉唯は、恐る恐る飲み口を近づけ、ゆっくりと中の水を自身の体内に流し込み始めた。だけど一口飲んですぐに噎せ、激しく咳き込み出した琉唯は、珍しく涙目で私を見てきた。その瞳の中には、弱々しいながらも恨めしそうな目があった。それもそうだろう。琉唯が飲んでいるのは普通の水ではないから。ある薬を入れて跡形もなく溶かしている、とても苦くなっているであろう水だから。私が用意していたのは。 涙目で私を見る琉唯がたまらない。私の興奮を煽るその目をずっと見ていたいと思うけど、早く水を飲んでもらわないといけない。少量でも効果はあるだろうけど、せっかくなら全部飲み干してほしいのが正直な気持ちだ。薬を入れて溶かすだけの簡単な作業ではあったけど、琉唯のために丹精込めて作ったものだから。 私は琉唯に向かって口角を吊り上げたような笑顔を見せた。「全部飲んでね」薬が効き始める前に。琉唯は私の悪魔のような言葉に複雑な表情を浮かべるだけで、そのまま何も言わずにペットボトルの水を口に含み始めた。時折咳き込みながら。そして、喉の奥に感じる苦さを必死に我慢しながら。苦しみながら飲むその姿は、私に最高の快楽を与えた。 粒の薬を飲む時に、うまく飲めなかったことがある。それで口の中で溶けて苦さを感じて、それを頑張って飲んだ頃には喉の奥がとても苦くなっていたんだ。私が体験したそれと同じようなことが、琉唯の口の中には広がっているのだろう。飲んだ後は唾液が異様に溢れてきて、それを飲むのでさえ苦さを感じた。治まるまで辛かったのを今でもよく覚えている。その時私が感じた苦さと同じ苦さを琉唯が今味わっていることでさえ、私の気分を上昇させた。共有できていることが嬉しいんだ。 全部の水を飲み干してくれた琉唯は、苦しそうに息を切らしながら口元を拭っていた。その姿さえも愛おしい。私は琉唯に近づき、彼を思いっきり抱き締めた。飴と鞭の飴。この繰り返しで、きっと琉唯は私に従順になってくれる。「琉唯ならちゃんと全部飲んでくれるって思ってたよ」たまには褒め言葉だって必要だ。期待を裏切らなかった。期待に応えられた。それが琉唯の満足感になればいい。私の指示に従う意欲、活力になってしまえ。 琉唯はやっぱり何も言わない。抱き締め返すこともなければ、抵抗することもない。その代わりというのは変かもしれないけど、琉唯は私に体重を預けるようにして力なく座り込んだ。それに合わせるように私も床に膝をつき、胸の中で琉唯を抱く。意外にも薬の効きが早い。もう少しかかると思っていたから拍子抜けだ。だけど全然いい。寧ろ好都合だ。「眠たいんだよね?」いいよ、寝ても。おやすみ。耳元で囁くように言って、私は琉唯を眠りの世界へと誘ってやった。私が琉唯に飲ませたのは、催眠薬を含ませた水だった。 薬の効果に抗えるはずもなく、琉唯は私の胸の中で静かに眠りについた。これでようやく好きなようにできる。琉唯が目覚める前に、私は琉唯を拘束するつもりだった。ここから脱走しないように。私がいない間にいつ何が起こるか分からないから、監禁だけで満足するわけにはいかない。私の中では、監禁に拘束は必須条件のようなものだった。自由を奪えば、もっと私に従順になってくれるはず。たくさん愛して愛される関係を築いていきたいし、相思相愛という言葉が似合う仲になれたら尚いい。 私は琉唯を床に横にさせ、部屋の隅にまとめて置いている物の中から手錠を手に取った。琉唯の両手を彼の背中側で合わせてそれをつけ、拘束する。眠らさずにつけるのも良かったけど、目覚めた時に自分が拘束されていることを知った姿を見るのもいいと思った結果、眠らすことにしたのだ。手錠がつけられた琉唯の両手を見つめながら、私はこの上ない興奮を感じた。これで正真正銘、琉唯は私のものになった。毎日好きと言ったり言わせたり、キスだってしたりさせたりできるんだ。学校では会えなくなるけど、それ以外はずっと一緒に居られるから問題ない。仮病を使って休む選択肢だってある。琉唯が姿を消したことで、彼の親がいつかは騒ぎ立てるだろう。それによって警察沙汰になってしまうこともあるかもしれない。その時はその時で、私も琉唯と一緒に行方を晦ましてやるつもりだ。それこそずっとここに閉じこもって、お互いに死ぬまで、いや、死んでからもずっと一緒にいてやる。見えない鎖は、もう完璧に繋がったんだ。 琉唯が目覚めた時の反応を見たくて、私は彼が目を覚ますのをいつまでも待っていた。琉唯と同じ空間に居られるのなら、同じ場所の酸素を吸えるのなら、何時間でも待てるし、琉唯本人の寝顔も私を飽きさせなかった。ずっと見ていられる。寝起きをまた襲ってやりたいと思うくらい。思わずニヤニヤしてしまう顔を抑えられないまま、私は手を伸ばして琉唯の髪に触れ、それから頬、唇に触れた。今すぐキスしたい。してしまおうか。私は脱力している琉唯を力いっぱい抱き起こし、壁に凭れさせた。力が抜けている人間の体はとても重い。しかも相手は男だから尚更のこと。それでも琉唯の上体を抱き起こすことができたのは、私の中にある愛の力が働いたからに違いない。愛の力だなんて、我ながらとてもロマンチックだ。 興奮によって全身が熱くなるのも構わず、私は琉唯の上に乗って彼の唇に自分のそれを押しつけた。頭を抱き締めるようにして強く、深く。キスで琉唯が目覚めてもいい。それで本当に目が覚めたら、まるで御伽噺の世界のよう。1人で息を乱しながら、私は琉唯の唇をこじ開けて舌を入れた。無意識のうちに体の中心部を琉唯の足に擦り付けていた私は、心臓が跳ね上がるほどの享楽にその行動をやめられなかった。腰を動かしたまま琉唯から唇を離して彼を見ると、ゆっくりと瞼を上げ始めているのが分かった。状況を把握される前に、私はまた琉唯の唇を奪って舌を入れる。驚いたように声を漏らした琉唯のそれを聞いて、私の気分は最高潮に達した。 脱力した私は唇を離して琉唯を見る。彼は私を見つめて、それから我に帰ったように私を押しのけようとした。だけど。「え、なんで」困惑したように掠れたような声を出した琉唯は、そこでようやく両手の自由が利かないことに気づいたようだった。琉唯の後ろで手錠の擦れ合う音がする。徐々に自分の置かれている状況を理解し始めた琉唯は、唇を噛み締めて私に視線を向けてきた。その瞳は焦燥感を抱いているかのように少しばかり揺れていた。困惑と焦燥。拘束されていることに気づいた琉唯の反応はそれだった。少しずつではあるけど、確実に琉唯の心は弱くなっている。このまま極限まで追い詰めて、調教さえも私の好意だと受け取ってくれたらいい。そして、マゾヒズム的感覚にも陥ってしまえ。 私は琉唯の上に乗ったまま、彼の頬に手を添えて唇を重ねようとした。その時。「お前、やっぱり頭おかしい」俺をどうしたいんだよ。琉唯は前と同じようなことを掠れたような声で言った。途端に私は底知れない苛立ちを感じ、キスしようとしていたのをやめて、琉唯の頬を躊躇なく殴った。また私のことをお前呼ばわりした罰だ。あれほど痛めつけて教えてやったのに。琉唯から離れて彼の胸倉を掴み、私はもう一発頬を殴った。「私のことは夢乃って呼んでって言ったよね?」私はお前じゃない。夢乃だ。だから、夢乃って呼べ。 琉唯は一旦は固く口を閉ざしたけど、すぐに観念したように言い直した。「夢乃は俺をどうしたいんだ」私は琉唯から手を離して彼を優しく抱き締めた。最初からそう言っていれば良かったんだ。まだまだ言わされているだけではあるけど、それでも、琉唯の口から吐き出される夢乃という言葉に私は嬉しさを感じていた。その返事を彼の耳元で囁く。「苦しめたい痛めつけたい愛したい愛されたい私のことしか考えられないようにしてやりたい私だけを見てほしい」監禁したい独占したい束縛したい琉唯の全てを私のものにしたい。息つく暇もないまま、もう既に叶っていることでさえも囁いてから、私は琉唯の反応を窺った。彼は絶句しているかの如く真一文字に口を結んでいた。それに私は更に追い討ちをかけた。気持ちを煽るように、はたまた強要するように。 「もっと苦しんでよ琉唯。私は苦しむ琉唯を見たい。琉唯は私のこと好き? 私は好き。大好き。愛してる。琉唯も同じだよね。当然だよね」 琉唯は何も言わなかった。否定も肯定もしなかった。まるで絶望を感じているように唇を引き結んでいるだけ。だけど、私の中では無言は肯定だ。そもそも否定の言葉なんか絶対に言わせないし、もし言ったら叩きのめしてまた愛してるって言わせてやる。俺も夢乃を愛してる。そう言わせてやるから。私を愛さない、愛せないなんて絶対にありえない。 私の真っ黒な感情を真正面から突きつけられた琉唯は、怯えを隠し切れていないような瞳を静かに揺らして視線を彷徨わせていた。その表情も私を大いに振起させる。もっと苦しんで。もっと私を愛して。動揺、畏怖、焦燥、嫌悪。今琉唯が抱いているそれらの感情が、享楽、興奮、嬉々、好意に変わるまで、私は彼を調教し続けるつもりだ。とことん愛して愛される関係に。私は琉唯にキスをして、血に染まるほど真っ赤な愛の鎖をきつく巻きつけたのだった。 世間では琉唯は突然行方不明になった。人気者の彼が行方を晦ましたら周りが騒がないわけがなく、みんなして彼のことを必死になって探していた。そんな混沌とした状況を作り出したのは当然私で、全ての真相を知っているのも私だけだった。いつかは私が琉唯を監禁しているとバレてしまうかもしれないけど、今はまだ大丈夫だろう。私と琉唯の愛の住処を簡単に崩壊させるわけにはいかないし、まだまだやらなければならないことだってある。学校では私も周りと同じように、琉唯の安否を心配しているふりを貫き通すことに専念していた。まだ見破られてはいないため、しばらくはそれで騙し通せるだろう。 琉唯にその日あったことを簡潔に話すのが日課になっていた。だらだらと長話はしない。それから、毎日キスをすることも日課になりつつあった。たまには私がリードして体を重ね合わせることもある。抵抗したらその都度殴り、私の指示に従おうとしない場合も殴った。それでも全然言うことを聞いてくれなかった時もあり、その瞬間から私は琉唯の首にロープを巻きつけて、いつでも簡単に首を絞められるような工夫をした。琉唯の命すらも私の手の中にある。それが酷く快感だった。全ては私に絶対服従させるため。私を素直に愛して、素直に求めてくるように琉唯の体を改造するため。これは調教だ。優しい言葉だったら躾とも言えるだろう。 琉唯は日に日に大人しくなっていった。私を見る目が縋るような弱々しいそれになっていく様を見るのは快楽だったし、まだ少し残っている理性が働いて苦悶の表情を浮かべている姿を見るのも堪らなく気持ちよかった。今くらいの精神状態がちょうどいいと感じる。痛めつけたら苦痛に顔を歪めてくれるし、私の言葉には未だに抵抗を見せることもあるけど、以前よりかはすぐに従ってくれるようになったから。鞭で叩いて飴を与える。その繰り返しでここまで辿り着いた。だけど、何かが足りない。それはきっと、琉唯からの愛の言葉だ。私が無理やり吐かせるのではなくて、琉唯の心の底からの言葉が欲しい。熱い瞳で私を見て、愛してると言ってほしい。夢乃、愛してる。琉唯がそう言ってくれる様子を想像するけど、それだけじゃ満足できなかった。現実の琉唯に、今目の前にいる琉唯に、その言葉を自然と吐いてほしい。でなければ、この足りない気持ちはいつまでたっても満たされなかった。 毎日のように琉唯に愛を伝え、毎日のように琉唯に暴力を振るっていたある日のこと、ようやく私の願望が叶う時が訪れた。私に愛の言葉を浴びせられ続けたり、暴力を振るわれ続けたり、たまに息の根を止められそうになったこともあったりした結果なのか、ついに琉唯の精神が崩壊したのだ。私に酷く従順になり、私がずっと欲しかった愛の言葉までも返してくれるようになった。前まではキスをしろと命じてもなかなかしてくれなかったのに、今となっては洗脳されたように甘い口づけをして、私の気持ちを満たすように自ら深いキスも追加してくるほどになった。口にはしてこなかったけど、琉唯はもともとキスがうまい。それが更にレベルアップしていて、床に膝をついているのに琉唯に縋りついていないと、そのうち一気に力が抜けて倒れてしまいそうだった。またキスの合間に囁かれる甘い言葉が、私に最高の享楽を与える。「夢乃、愛してる」私はその言葉がほしかった。私に言わされている言葉じゃなくて、琉唯の心からの言葉が。 「琉唯聞いて。今日ね、性に関する講話があったんだよ。そこでオーラルセックスっていうのがあるのを知ったんだ。せっかくだからさ、私の舐めて気持ちよくしてよ」 学校であった性に関する講話を、私は琉唯に簡単に話してやった。他の授業の復習なんて一切しないのに、こういうのに関しては復習したいと思ってしまう辺り、私も随分と変態なようで。だけどもうそれでいい。変態だと言われようが気持ち悪いと言われようがどうでもよかった。琉唯に気持ちよくしてもらえるのなら本望だから。きっと今の琉唯なら、拒否せずに私の言葉を素直に受け取って従ってくれるだろう。私のを迷わずに、躊躇いもなく舐めてくれる。激しいキスで何度も私を最高の気分にさせてくれたその舌で。その唇で。私を愛撫してくれるはず。 私は部屋の隅からガムテープを手に取った。見られるのは流石に恥ずかしいから、ちゃんと目を隠してやるつもりだ。虚ろな表情で私の行動を眺めている琉唯の前に膝をついた私は、彼の視界を覆うようにガムテープをきつく巻いた。目元にそれがくっつかないように、そこの部分だけはガムテープ同士で貼り合わせて。やっぱり琉唯はほとんど抵抗しなかったけど、完全にそれをしなかったわけではないから、少しでも抵抗した暁には首に巻いているロープを強く引っ張って彼の行動を制した。これで準備万端だ。 ガムテープで視界を遮られている琉唯を見るのはとてもゾクゾクして、体中の血液が沸騰するような感覚がした。私は溢れてくる唾液を飲み、下着を脱ぎ捨てて座り込んだ。自分が卑猥なことを琉唯にさせようとしていることなんて百も承知だし、琉唯本人も卑猥なことをさせられると頭では理解しているだろう。だけど拒否できないまま、私の秘部を舐めることになるのだ。完全に琉唯を支配していることが優越感として表れ、今までで一番最高の気分に陥った。 私は琉唯の後頭部に触れて、自分のものに近づけさせた。琉唯の息遣いを感じる。なかなか舌で触れてくれない琉唯は、私を焦らしているかのようで。私はロープを握って引っ張り、琉唯の首を軽く絞めた。焦らしプレイは嫌いだ。首を絞められ苦しそうな呼吸音になる琉唯は、熱くて荒い息を吐き出しながらようやく舌を出し、ゆっくりと舐め始めた。私の口から自然と声が漏れる。そのうち私は全身を貫くような、底知れない酷い快感に酔い痴れることになるのだった。 琉唯は最近になって私を心から愛してくれるようになった。キスをしたら拒否することなく受け入れてくれるし、琉唯からしてと頼んでも素直に唇を重ねてくれる。とても私に従順な琉唯が堪らない一方で、久しぶりに苦悶の表情を浮かべる琉唯を見たいとも思うようになっていた。私に縋るような眼差しを向ける琉唯と、苦悶の表情を浮かべる琉唯。どちらの表情も私は好きだから、見たい欲がある方を優先することにした。苦しめ続けた後は、また自分に従順な姿を見たくなるだろう。交互に攻めていけば、私の心はきっと満足できる。私は琉唯に向かって口角を吊り上げた。 部屋の隅からあるものを手に取る。殴ってばかりいたけど、今回は殴ることはしない。楽しくて笑みが止まらないまま私は琉唯を振り返り、手に持っているものを見せびらかした。琉唯はそれを凝視して、息を呑んだ。スイッチを押してみると、先端から禍々しい炎が顔を出す。私が今持っているのは小型ガスバーナーだった。いつかはやろうとしていたこと。人間火炙り。炙る箇所は指先。舌舐めずりをして、私は琉唯の背後に回り込んだ。これは殴られるよりも苦痛かもしれない。熱くて痛くて火傷のような症状も追加されるから。琉唯は一体どんな表情を見せてくれるのだろう。 小型ガスバーナーの火をつけて、ゆっくりと琉唯の指先に近づけた。ある程度炙り終えたら、その長くて綺麗な指を私が舐めて更なる屈辱を味わわせてやるつもりだ。耐えられたらまたご褒美をあげる。飴と鞭を繰り返すのは変わらない。次第に琉唯は声にならない声を上げて、激痛を必死に堪えるような荒い呼吸を繰り返し始めた。我慢している。その事実に興奮すると共に、せっかくなら取り乱したように叫ぶ姿も見たいと思った。私は火炙りを続けたまま琉唯の耳元に顔を寄せて、気持ちを煽るように囁いた。「叫んでもいいよ」そう許可を下したけど、琉唯は少しも叫ばなかった。ただ歯を食い縛って、唇を噛み締めて、舌を噛むような勢いで、ひたすら激痛に耐えているだけ。叫ばないのはつまらないけど、過去最高に苦しんでいる姿を見られたのは嬉しくて、そのあまりの興奮に唾液が溢れてしまいそうになった。 琉唯の苦しむ姿を見るのが楽しすぎて、しばらく火炙りを続けた結果、琉唯の口の端から真っ赤な鮮血が垂れ始めていることに気づいた。激痛に堪えるために無意識のうちに舌を強く噛んでしまっているのかもしれない。私は小型ガスバーナーの火を消して、琉唯の真正面に移動した。火炙りから解放された琉唯は、息も絶え絶えに虚ろな表情でこちらを見た。私は琉唯の口の端から垂れている真っ赤な血に指先で触れて、彼の目の前でその指を舐めてみせる。口の中に広がる琉唯の血の味。血液すらも共有している感覚に思わず酔い痴れてしまい、私は琉唯の口から流れる血を掬い取るようにして直接舌で舐め、そのまま琉唯の口内に舌を入れて血液もろとも掻き回した。 噛んだことで傷ついた舌と私のそれとが擦れて痛いのか、琉唯は舌を引っ込め続けていた。私はそんなことなど構わずに、琉唯の血液の味を嗜むかの如く満足するまで舌を動かし続けた。その勢いのまま琉唯を壁に押さえつけ、先程火炙りをしていた指を強く握る。その部分はとても熱くなっていた。血液が唸るような脈動すら感じる。一時的に敏感になっている部分に強い刺激を与えられ痛みが急激に増したのか、舌を絡めている琉唯の口から苦痛を堪えるような喘ぎに近い声が漏れた。痛む箇所を攻められ続けて苦しむ琉唯が最高に愛おしい。私は気が済むまで琉唯を甚振ってやった。 ロープを引っ張って首を絞めながら濃いキスをし続けて死ぬギリギリまで追い詰めたり、首を絞めたまま指をまた炙って、それからその指を舐めたり噛んだりした私は、思う存分琉唯を痛めつけることを楽しんだ。意識が朦朧としている琉唯だけど、気絶はしなかった。いや、させなかった。生き地獄を味わっているような琉唯を見るのが快感そのもので、とてもゾクゾクする。好きが溢れて止まらない瞬間だった。もっと琉唯を追い詰めてやりたくて、私はネットで仕入れた拳銃を手に取り、銃口を琉唯へと向けた。引き金に指を引っ掛けるけど、それを引くことはしない。琉唯を殺す時は私が劣勢に陥った時だ。監禁していることがバレて無理やり琉唯から引き離されそうになった時や、彼自身が豹変してやり返してきた時など。そんな風に、私と琉唯の愛の主従関係が崩壊してしまいそうになった時に、琉唯を殺して私も一緒に死ぬつもりだった。絶対に琉唯を1人にはさせない。私は琉唯と生死をともにしたいんだ。 自分に向けられた銃口を虚ろな瞳で見つめる琉唯。生きることを諦めているような、どうせなら撃たれて死にたいと思っているようなその瞳が堪らない。現段階では琉唯を殺すことはしないし、死なせることもしない。明日も明後日も明々後日も、愛して愛して愛しまくってやるから。私は一生そのつもりだから。琉唯への熱が冷めることは絶対にない。ずっと永遠に愛してる。毎日キスして毎日甚振って飴と鞭を与え続けるんだ。それが私の極上の愛情表現。琉唯を愛していいのも、琉唯に愛されていいのも私だけ。私以外を愛するのは絶対に許さない。「最高に愛してるよ」永遠に。ずっと。死んでからも。愛の言葉を綴った私は、拳銃の先端を自分の口元に寄せて軽く舐めながら、口角を吊り上げて琉唯を見下ろした。その瞬間、琉唯は力尽きたようにゆっくりと瞼を閉じ、床に力なく横倒れになってしまったのだった。 両親に最近地下で何をしているのだと問い質された。2人はずっと私の行動を怪訝に思っていたらしい。その表情にはなんだか焦りも募っているようで、何か悪い予感を覚えている様子だった。薬師神琉唯の行方が分からなくなっていることは、クラスメートはもちろんのこと、親の間でも噂になっているのは知っていた。琉唯の両親があちこち聞いて探し回っていて、私の両親にも話を聞きに来たことがあったから。私は素知らぬ顔をしていたし、今自分たちがいる真下に大切な息子がいるとは思ってもいないらしく、早く見つかってほしいです、心配ですという私の言葉を素直に受け取ってお礼まで言ってきた始末だ。笑えてきそうだった。すぐ近くに息子がいたのに、また遠ざかって行く彼の両親。しばらくはバレる心配はないと感じた瞬間だった。 別に何もしてないよ。自分の両親の問いにはその一言で貫き通してなんとかその場を凌いだけど、2人は自分の娘の言っていることが本当なのかどうかを確認するようにして、私が地下に行くよりも先にそこへ向かっていた。地下にある部屋の鍵を持っているのは私。だから、中に入ることは難しい。両親は扉の前に立ってドアノブを回したりノックをしたり声をかけてみたりして、中に誰かがいるかいないかの確認をしていた。中には琉唯がいる。だけど、憔悴しきっている彼が自分の存在を知らしめるのには恐らく時間がかかるだろう。私は焦ることなくゆっくりと両親に近づき、声をかけた。「信じてくれなかったんだ」両親は肩を揺らし、自分の娘に対して恐怖心を抱いているような目を向けてきた。それはとても滑稽な姿だった。「いるよ。その部屋に。みーんなが探してる薬師神琉唯が」私が心から愛してる人が。開き直って正直に白状した私に、怒りの目を向けてきた父親が怒鳴った。「今すぐ彼を解放しなさい」そんな父親に対して、母親は自分の娘の所業にショックを感じたのか、その場に泣き崩れた。 私は部屋の扉を開け、自分が琉唯にしていたことを全て晒した。部屋にいた琉唯は感情のない瞳で私の姿を捉え、それから後ろにいる私の父親を見るなり安心したように緩く微笑んでゆっくりと瞼を閉じた。父親は突っ立っている私を押し退けて琉唯の元へ向かい、首に巻かれたロープを外した。それから携帯を取り出して救急車を呼び出そうとしたところで、私は部屋の隅に置いていた拳銃を手に取ってそれを琉唯の方へ向けた。ゲームオーバー。一緒に死ぬ時だ、琉唯。私は彼に向かって口角を吊り上げ、唇を舐めた。そして、狙いを定めて引き金を引こうとした時、誰かが突進してきたがために琉唯に当たるはずだった弾がズレてしまった。乾いた音が狭い部屋に響き渡る。突進してきたのは泣き腫らした母親だった。私は邪魔をしてきた母親に舌打ちをして、銃口を琉唯ではなく自分の母親へ向けた。邪魔だ。たとえ親でも、私と琉唯を引き離そうとするのは許さない。「夢乃」父親の激怒する声がどこか遠くで聞こえたと思った瞬間、お腹に激痛が走り、私の視界は真っ暗になった。
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