わたしが泣いた理由はブラウン管の向こう側

4/4
前へ
/4ページ
次へ
そのまたあくる日、昨夜訪れた嵐が去り、絵に描いたような青空が広がっている。 わたしの心は、この空のようには晴れてくれない。 あのブラウン管の向こう側の彼がわたしに住み着いて、離れてくれない。 恋をしたわけではない。 けれど、彼のあの表情が、彼のあの言葉が、彼のあの仕草が、忘れられない。思い出しては、思考する。 この感情をなんと言ったらいいのかわからないけれど、考えれば考えるほど、ひとつの物語りが出来そうで、近くにあった、裏の白いどこかからの手紙を目の前に置く。 スマホのメモ帳を開いてもいいけど、なんだかペンを持ちたい気分で、落書きにミニ竜巻を書きながら、彼の物語りを書き始めた。 彼は失ったのだ。 失ったから、わたしの胸を締め付けて、忘れられなくて、こうしてわたしにペンを握らせた。 泣いた。 紙に涙が落ち、字が滲んで読めなくなるほど、泣いた。 書きながら泣いた。 泣ける文章を書けるわたしではない。 けれど泣いた。 泣きながら書いた。 わたしの中で動く彼は、わたしを泣かせた。 泣いて泣いて、だけど彼はわたしから離れてくれない。 その現実にも泣けてきて、今夜も嵐がやって来た。 恋をしたわけじゃない。 憧れを抱いたわけでもない。 だけど、気になるのだ。気になって気になって、彼が気になって仕方がない。 泣きたくなるほど。 泣いてしまうほど。 こんなに泣いたのは、いつ振りだろう。 こんな理由で泣いたのは、初めてだけれど。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加