朱に交われば赤くなる2

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 すり、と彼の指が私の手の甲を撫でた。  反射的に引こうとした手首ごと掴まれて、僅かに彼の方に引き戻される。 「狼谷く、」 「ねえ羊ちゃん。ちゃんと俺の目、見て」  狼谷くんは真剣だった。  だけどそこには期待と諦めが入り交じっていて、どこか仄暗い。  随分久しぶりに、彼を怖いと思った。  どういった種類の恐怖かは定かじゃない。  自分の本能の部分がしきりに警鐘を鳴らしているような気がして、なぜか腰が引けた。 「俺のこと、ちゃんと見てくれる?」  ここでノーと答える選択肢は、用意されていないだろう。  とにかく解放されたくて、私は黙って何度も頷いた。  狼谷くんは私の手を握る力を一層強めて、小首を傾げる。 「羊ちゃん、言ってくれないと、分かんない」 「え、……あ、」 「言って……?」  何だか泣きたくなってきた。  さっきまで私が狼谷くんを励ましていたはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろう?  いつの間にか形勢逆転されている。  恐る恐る狼谷くんを見上げて、私は口を開いた。 「え、えっと、」 「うん」 「……狼谷くんのこと、ちゃんと見てるよ」
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