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boy's side
俺が付き合っている高橋侑里は、よくも悪くも、普通の女だ。
取り立てるほど可愛いとか、ベッドに入ると凄いとかいうわけではないが、顔をしかめるようなブスでもないし、一丁前に貞操観念だけは乾いた後のコンクリートみたいに硬いわけでもない。むしろそんなんだったら最初から付き合ったりなんかしない。まあこれまで派手目で、高帯域のキンキン声で話すパリピ女とばかり付き合ってきたから、たまにはこういう普通の女と付き合うのも悪くないか……と思って、侑里の告白を断らずに受けてみたのだった。
俺は侑里みたいなタイプの女は初めてだったけど、何事も食わず嫌いってよくないだろ。何年も何年もワインみたいに暗くて寒いところで一方的に寝かしつけて、やっと口を付けてみたら「もう少し早くてもよかったな」なんてことをのたまうほど、アホ臭いことなんかないじゃないか。
とはいえ、やっぱり普通は、何かきっかけになることがなければ、どこまで行っても普通なのかもしれない。いまの雰囲気としては不快感こそないものの、いまいち気持ちが盛り上がらない。心電図だと限りなく死んでるに近い。いつ「ピーーーーーーー」って音が鳴り響いてもおかしくない。ほら、よくあるだろ。紙に定規をあてて線を引いているのに、気づいたら左に少しずつ曲がっていったりしている感じ。
引いた線が真っすぐになることイコール死であり、ここでいうと別れになるわけだけど、まだそこまでに至っていないから、俺たちは今も一応は付き合っている。
もちろん、侑里が俺のことを好いているという気持ちは伝わってくる。二人でいる時はいつもひっついてくるし、俺が飲み会に出かけるからとLINEのやりとりを終わらせようとしても、あの手この手でなんとかギリギリまで引き延ばそうとしてくる。なに、会話を引き延ばすなんて、LINEで逆探知でもしようとしてんのかよ。俺は誰ん家の子供も誘拐していないし、身代金も要求してないぞ。もっとも、無自覚のうちに、侑里の気持ちは奪っていたのだろうけど。
そういうところはいじらしくて、こいつ普段はおとなしいけど結構可愛らしいとこあんじゃん、とは思う。でも、多分俺が求めてるのってそういうタイプのことじゃないんだろうな。それがわかっただけでも、侑里と付き合った意味というのは何もなかったわけじゃないし、そこは素直に感謝すべきところだろう。
でもさあ、と思う。
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